アレ→夢

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アレ→夢

 ハッ! と意識を取り戻すと、目の前には懐かしい光景が広がっていた。  デカくて立派な城と活気のある見慣れた城下町。  間違いない。  俺が生まれ育った場所であり、父と母が待つ故郷〝アレア王国〟だ。  だが、俺の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんだ。  俺はついさっきまで魔王の城に居たはずなのだ。  紙一重の戦いにかろうじて勝利した俺は……?  そこまでは思い出せるのに、最後の部分がどうにもはっきりしない。  というか、俺は本当に魔王を倒したのか……? ダメだ、なんだか記憶に霧が掛かっているような気分だ。 「まさか……、だったってことはないよな?」  目が覚めたばかりで頭が働いていないのか、妙な言い回しをしてしまった気がする。きつけ代わりに一発頭を小突いておくとしよう。  コツンとこめかみを殴った俺は、念のために聖剣を鞘から引き抜いてみた。  するとそこには、魔王との戦いで生じた真新しいが確かにあった。  小さな証拠だが、命を預ける相棒である聖剣の手入れだけは怠らなかった俺だ。  俺は魔王と戦った――それだけは間違いない。 「やっぱりアレじゃなかったみたいだな――って『アレ』ってなんだよ!」  思わず自分で自分にツッコミを入れてしまった。  素直に『夢』と言えばいいのに……頭はまだ寝ぼけているらしい。  とりあえず俺はもう一発自分の頭を殴ることにした。今度はさっきよりも強めにだ。  ったく、魔王を倒した(?)からって少し浮かれてんじゃねーのか?  いいか『夢』だぞ。『アレ』じゃなくて『夢』。  バカみたいな自問自答だが、俺はこういう所ははっきりさせておきたい性格なんだ。  だから頼むぞ、次はちゃんと『夢』って言ってくれよ、俺。  さん、はいっ。 「アレ!」  おいおいおいおいおいおい――っ!  冗談はやめてくれよ、まさかを揶揄(からか)ってんのか?  『夢』『ゆめ』『ドリーム』だよ。  ぜんっぜん難しい事じゃないだろ?   いままで何度も口にしてきた言葉じゃねーか。  ……よし。  そんじゃもう一回だけ。もう一回だけチャンスをやるからな。  いいか? 最後のチャンスだからしっかり頼むぜ?  せーのっ。 「アレっ!!」  額からドバっと冷や汗が流れた。
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