19人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
アレ→夢
ハッ! と意識を取り戻すと、目の前には懐かしい光景が広がっていた。
デカくて立派な城と活気のある見慣れた城下町。
間違いない。
俺が生まれ育った場所であり、父と母が待つ故郷〝アレア王国〟だ。
だが、俺の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんだ。
俺はついさっきまで魔王の城に居たはずなのだ。
紙一重の戦いにかろうじて勝利した俺は……?
そこまでは思い出せるのに、最後の部分がどうにもはっきりしない。
というか、俺は本当に魔王を倒したのか……? ダメだ、なんだか記憶に霧が掛かっているような気分だ。
「まさか……、アレだったってことはないよな?」
目が覚めたばかりで頭が働いていないのか、妙な言い回しをしてしまった気がする。きつけ代わりに一発頭を小突いておくとしよう。
コツンとこめかみを殴った俺は、念のために聖剣を鞘から引き抜いてみた。
するとそこには、魔王との戦いで生じた真新しい刃こぼれが確かにあった。
小さな証拠だが、命を預ける相棒である聖剣の手入れだけは怠らなかった俺だ。
俺は魔王と戦った――それだけは間違いない。
「やっぱりアレじゃなかったみたいだな――って『アレ』ってなんだよ!」
思わず自分で自分にツッコミを入れてしまった。
素直に『夢』と言えばいいのに……頭はまだ寝ぼけているらしい。
とりあえず俺はもう一発自分の頭を殴ることにした。今度はさっきよりも強めにだ。
ったく、魔王を倒した(?)からって少し浮かれてんじゃねーのか?
いいか『夢』だぞ。『アレ』じゃなくて『夢』。
バカみたいな自問自答だが、俺はこういう所ははっきりさせておきたい性格なんだ。
だから頼むぞ、次はちゃんと『夢』って言ってくれよ、俺。
さん、はいっ。
「アレ!」
おいおいおいおいおいおい――っ!
冗談はやめてくれよ俺、まさかを俺を揶揄ってんのか?
『夢』『ゆめ』『ドリーム』だよ。
ぜんっぜん難しい事じゃないだろ?
いままで何度も口にしてきた言葉じゃねーか。
……よし。
そんじゃもう一回だけ。もう一回だけチャンスをやるからな。
いいか? 最後のチャンスだからしっかり頼むぜ?
せーのっ。
「アレっ!!」
額からドバっと冷や汗が流れた。
最初のコメントを投稿しよう!