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遠い遠いある日のことです。
機械人形の彼女には、共に生活している、というよりはお世話をしている、一人の少女がいました。
その日、少女は、かすれる声で透き通った音を口ずさんでいました。それは少女の好きな音の連なりで、少女はよく機械人形の彼女にその音を聞かせていました。
機械人形がそんな少女をただ見詰めていると、少女はふと機械人形の方を見ます。そうして唐突に、こんなことを尋ねました。
「──あなた、泣き女って知っている?」
泣き女。機械人形はその言葉を即座に自分のデータへ検索を掛けて他の意味が見つからないことを確認すると、泣いている女性のことですか? と応えます。
そのままの機械人形の答えに、少女は「いいえ」と言って続けました。
「昔、人間は近しい人が死んだとき葬式というのをあげたの。それは、あなたも知っているでしょう? 泣き女っていうのはね、その葬式で悲しんでもないのに泣く女の人のこと。それを、仕事としてやっている人のことね」
悲しくもないのに、ですか。そう言って機械人形は不思議そうに見えるように、首を45度ほど傾けて見せます。
「そう。そうすることで、その葬式が悲しいものだってことを周りの人にも分かるようにする。体現する、という感じなのかしら。宗教的な面は私にはよく理解が出来ないけれど、そういうものが昔、何処かの街にはあったらしいのね」
そう言って、少女は傍らに置かれていた本の表紙を撫でます。少女は本を読むのが好きで、暇な時間さえあればよく、本を読んでいました。
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