ゼンマイ仕掛けの泣き人形

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 それは、いつかどこかのお話です。  その日も、その機械人形は泣いていました。  そこはおおよそ世界の終わりとは程遠い、森の中。  でも、かつてその場所を世界の終わりだと呼んだ人たちがいることを、機械人形は知っています。その人たちは何百年も昔、この静かな森の中で、永遠の眠りにつきました。  機械人形が涙を流しているのは、そのいつか誰かが住んでいた証である、瓦礫となった廃墟の中心部。見ようによっては墓石とも見える大きな石の前でした。  それは、一見して人間の女性と変わりない見た目をした機械人形でした。  しかし、一つだけ人間と違う所をあげるとするなら、その機械人形の彼女の背中に、大きすぎも小さすぎもしないゼンマイがあることです。  彼女が一体いつごろからそうしているのかは、彼女自身も定かではありません。  何百年もの間、機械人形は目から涙とも見える水滴をそこでずっと流し続けていました。ポロポロと彼女の頬を伝った水は、地面に染み込んで、やがて植物を育てる栄養に変わります。
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