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――僕は、彼女のことが好きだった。
高校二年生の夏休み。自称進学校のその高校では、課外授業が毎日行われていた。とは言っても、通常授業とは違い、昼食を終えてから一時間ほどで午後の授業は終わる。そこから帰る人もいれば、部活に行く人もいるが、教室に残って勉強する人はいなかった。
そんな放課後の教室。いつもなら無人だが、今日は珍しく人がいて、それは昨日と同じ顔ぶれだった。
一人は、椿本 岳。
これと言って挙げられる特徴が存在しない、眼鏡を掛けた少年。
もう一人は、笠嶋 真琴。
長い黒髪に白い肌、高貴な雰囲気で一つも欠点のない美少女。
彼女は、同じクラスの男子とさえ会話しないくらい、徹底的に女子以外の存在を避けていた。その行動もまた、彼女の崇高さを際立たせていた。
岳は、二年生の同じクラスになった時から、真琴に惚れていた。
彼と彼女が教室に二人きりでいる状況は、これが初めてではなく、昨日の放課後も同じように、教室で話をしていた。
昨日は、一人寝ていた彼女を、気持ち悪い行動でもって起こしてしまうという失態を冒してしまった。
それでも彼は、好きな人と初めて会話する事ができて、喜んでいた。
そしてそれは、昨日の一瞬の話だ。
今も、彼女と対面しているという夢のような状況にいるはずなのに、彼は自らの顔を強張らせていた。
緊張しているのは勿論のこと、彼をそうさせる理由は、もう一つあった。
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