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11. ツノジカ団(3)
河野あすかの家があのヒジカタって人が言ってたツノジカ団!
……あれ?でもツノジカ団ってなんだ?
「ツノジカの像につかえるってどういう意味ですか?だって、あれってただの複製像でしょ?」
「『あれ』などという言いかたはやめてくれない?よその場所でならいざ知らず、このツノジカ団の本部において、そんな不敬(ふけい)なことばは聞き捨てならないよ」
こわい顔でにらむあすかにヒロユキがたじろぐと
「やめなさい、あすか。なにも知らない子に、わたしたちの考えを押しつけるんじゃない、それは傲慢(ごうまん)というものだ」
ヨウイチロウはあすかをたしなめると、ヒロユキにむかって
「わるいね、少年。むすめもツノジカさまがぬすまれて気が立っているんだ。しかも自分がいるときに事件が起ったというので、なおさら責任を感じている」
あすかは、そのことばを実にいまいましいというか、いたたまれないというように聞いていた。彼女がこんなふうに感情を出しているのははじめて見る。
そう言えば、昼間ツノジカがぬすまれたと先生が言ったとき、あすかは「そんな……」と小さくつぶやいて血の気が引いた顔色になっていた。
家の仕事に関係することだから心配してるんだろう、とそのときは思ったけど、どうやら、そう単純なことでもなさそうだ。
「やはり、きみにはツノジカさまとツノジカ団について、一からちゃんと言っておいた方がよさそうだね」
ヨウイチロウはヒロユキにちょっと長くなるよ、と前置きしたうえで話し出した。
「――もともと、このかむのの地は古くは神野(かむの)と書いたぐらい土地に神気(しんき)が満ちて、さまざまなふしぎなもの、あやしいものを引きよせたり生んだりしてきた、やっかいな土地柄(とちがら)だ」
「あやしいもの……ってなんですか?」
「そりゃ、たとえば妖精とか悪魔とか魔獣だよ」
こともなげにヘンなことを言ういいオトナに、思わずヒロユキがギョッとするとヨウイチロウは勘ちがいしたのか
「あ~、こわがらなくてもだいじょうぶ。人に直接、害をおよぼすような連中は今のかむのには『そんなに』いないから」
ヒロユキはそういう意味でギョッとしたのではないのだけど、ツノジカ団の団長はかってに話を進める。
「そのなかでわが河野家は、それこそ平安時代のむかしから、さまざまな呪能(じゅのう)を使ってかむのをかげから支えるのを役割としてきた魔道の家なんだ。とくに日本古来の和歌の言葉を呪文がわりに使うコトノハ術を得意としている。
きみを助けるときにあすかが使った言葉は『まそかがみ』といって『照(て)る』を引き出す枕詞(まくらことば)だ」
(「照る」を引き出す……そうか、だから目の前がまぶしく光ったのか)
もちろんジュノウというのが何を指すのかヒロユキにはピンと来てない。
灯りの強いライトを放り投げてくれた、一種のマジックみたいなことかと思った。
「そうやって代々わたしたちはかむのの地を守ってきたのだけど、それが江戸時代ごろ、特にすぐれた術者だったわたしの、ひいひいひいじいさんが、とある予言をのこして事態は変わった」
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