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1.博物館見学(1)
「はい、かむの第二小学校四年生のみなさん。
こちらが、かむの市立博物館の自然展示室『いまのかむののすがた』です。
ゆっくりごらんになってください」
大きなホールに、学芸員のお姉さんのりんとした声がひびいた。
こどもたちは、数人ずつの小グループにわかれて、わあわあ言いながらも順番に室内をめぐっていく。
そこには地元かむのの自然を紹介するために集められた多くの昆虫や魚類、ケモノの剥製・標本、それに地形模型などが展示されていた。
「わっ、これイタチの解剖図だって。うぇっ、グロい!」
「あっ、この写真シロガネ公園だ!おれん家(ち)の近所だ!」
「このチョウチョきれ―い」
そんな、わあわあとさわぎながら進むクラスメイトたちのあとを、田中ヒロユキはしずかについていった。
なにせヒロユキは四日前に引っこしてきたばかりなので、この小さな地方都市「かむの」にまだなじみがない。
地元になれ親しんだクラスメイトの子たちと同じようには、盛り上がることができなかった。
もともと人見知りぎみで、友だち関係もゆっくりつくっていくタイプのヒロユキに、転校数日での校外学習・博物館見学というのはハードルが高く、ついつい、ただだまって歩いてしまう。
そんな緊張しぎみのヒロユキに
「田中くん、どうかした?おもしろくない?」
話しかけてくるのは、おなじ小班(グループ)で博物館を回ることになった平井リヨだった。
いかにもクラス委員らしく生真面目な彼女は、その責任感からか率先(そっせん)してヒロユキと同じグループになり、転校生が孤立しないように気をつかってくれていた。
「――えっ?いや、ちがうよ、平井さん。なにもない」
つとめて明るくこたえたヒロユキだったが、実は、さっきから緊張以外にも気を取られていることがあって、それで表情がくもっていたのだ。
それは、このかむの市立博物館に入ったときから聞えつづけている、みょうな音だった。
その音は、まるで虫がささやいているようにとても「あえか」なものなのだけど、館内に入って以来、まるで、そこらじゅうから聞こえてくるような気がヒロユキにはしていた。
しかし、まわりのこどもたちを見ても、だれもそんな音をとらえている気配が無いのでだまっていたのだ。
転校してきてすぐの子が、自分だけ聞こえる音があるなんて言ったら、ただの目立ちたがり屋のウソツキに思われるかもしれないと思ったのだ。
それにしても、この音はなんだろう?
(もしかして『耳鳴り』になっちゃったのかな?おばあちゃんがいつも耳のおくでなにかがチリチリ鳴っていて、つらいと言っていた。それだとしたらヤダなぁ。お医者さんにかよっても、なかなか治らないって言ってたもの……)
想像がわるいほうにふくらんで、ついつい思案顔になっていたヒロユキだったが、田中リヨに話しかけられて
(いけない、いけない、そんなことより、いま大事なことは、はやく新しいクラスのなかでなじむことだ。明るくしてなきゃだめだぞ)
と、気持ちをいれかえた。
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