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2.博物館見学(2)
「ぜんぜんだいじょうぶ。たのしくないなんてことはないよ。よく知らないかむののことが知れるからちょうどいい」
「そう、ならいいけど……ちょっと、あすか!そんなにさっさと先に行かないでよ!」
平井リヨが声をかけたのはヒロユキたちとおなじ小班にふりわけられているにもかかわらずひとり、とっとかと先を行く長い黒髪の少女だった。
「えっ?……ああ、うん。わかった」
何がわかったのか、ふりかえったまま通路につっ立って所在無げにしているのは、河野(こうの)あすかだ。
河野あすかは、なんというか変わった子で、彼女がクラスの中で人に話しかけたりしているのをヒロユキは見たことがない。いわゆる美少女なのだが、男子からも女子からもちょっと浮いた存在らしい。
だれともまじわらない彼女が班分けのときにあまって、ヒロユキとおなじ小班になったのだ。
「河野さんは、こういう展示物とかに興味がないのかな?ぜんぜん見てないね」
ヒロユキが小声で平井リヨにささやくと
「ああ、あれはしかたないの。あの子にとっては、この博物館は見あきたものだから」
「見あきた?それって、どういうこと?」
「あの子の家は、この博物館においてあるお土産物とかグッズをつくって売る会社をしているの。『出入りの業者』っていうんだって。――ほら、これとか、みんなそうだよ」
平井リヨがしめすとおり、博物館に入るときにもらったノートや帽子、クリアファイルやボールペンにはいちいち「河野製造」の文字が入っていた。
「あの子は、だから小さいときから何度もこの博物館には来てるの。いまさらじっくり見ようっていう気もないんだよ」
「へえ……そうなんだ」
(会社をしてる家の子か……そういえば、いつもいい服着てるもんな。お金持ちの家の子っぽい。そりゃ見なれた場所に見学じゃ、テンションも上がらないだろうな)
「だから、あの子のことは気にしないでいいよ。ヒロユキくんは初めてなんだから、ゆっくり見てまわって」
「うん、ありがとう」
じっさい、かむのがどんなところかまだ何も知らないヒロユキには、博物館の展示ひとつひとつが目あたらしく、おもしろかった。
まだ自分が行っていない、これから行く場所がどんなところか想像をふくらませるだけで楽しかったのだ。
(ええい、耳鳴りなんて気にしないで、見てまわるのだけに集中しよう。せっかくの見学なんだから)
そんなふうに気持ちをいれかえると、根がマジメなヒロユキは虫やチョウをピンでとめた標本、といった地味な展示物もじっくりと見てまわった。
「いまのかむののすがた」コーナーをすぎると「むかしのかむののすがた」と書かれたゲートがある。
そこをくくると
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