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4.博物館見学(4)
(まずい。転校3日目でひとりはぐれるなんて、そんなしくじりをおかすわけにはいかない)
ヒロユキがクラスのみんなを追いかけようと、あわててホールをとびだそうとすると
「あっ、ごめん」
キャップをかぶった、ちいさい子――それこそまだ小学校にも上がっていなさそうな、おさない男の子とぶつかりそうになった。
(あれ?博物館の中をこんな小さいこどもがひとりで……おかあさんとはぐれたのかな?)
ふしぎには思ったが、ヒロユキは早くクラスの輪にもどらなければと気持ちがせいていた。
博物館には係のオトナの人がいっぱいいるから、ちっちゃいこどもひとりでもだいじょうぶだろうと、男の子をそのままにしてクラスメイトを追った。
ヒロユキがあわてて『かむのの産業』展示室に入ると、すでにもうクラスのみんなはかたまって、学芸員のおねえさんの解説を聞いていた。
「やあ、田中くん、おそいじゃない。集団行動は規律が大事だよ」
と、平井リヨに小声でおこられて、ヒロユキは「ごめんなさい」とあたまをさげた。河野あすかはいかにも気がないようすで、こちらを見ることもない。
そうして、かつてかむのの主要な産業の一つだった紡績業についての話をしばらく聞いていると、その児童たちのうしろのほうで、急に博物館のスタッフの人たちがあわただしくさわぎだした。
博物館は静かにしてなきゃならないはずだけどなあ、とふしぎに思っていると、スタッフの一人が学芸員のおねえさんに足早に駆けよって耳打ちしてきた。
「――えっ!?そんな、まさか?」
おねえさんもあわてた様子で引率の先生たちに事情を説明している。なんだろうと思っていると、藤江(ふじえ)先生がこどもたちを集めて言った。
「みなさん、残念ですが今日の博物館見学はここまでです。いまからこの博物館は臨時休業になります」
急な展開にこどもたちがいっせいにさわぎだす。クラス委員の平井リヨがきびきびと質問した。
「先生、いったいなにがあったんですか?」
藤江先生は学芸員さんに確認すると
「……いいでしょう。みなさんも何があったかわからないと不安になるでしょうから。実はたった今、この博物館の展示品が一つ、かってに外に持ち出されたようです。博物館の方が盗難事件として警察に通報なさいました」
こどもたちは先生の説明にわきたった。
「わあ、すげえ!ドロボーだ!」
「ルパンだ、ルパン!」
興奮するこどもたちに先生は
「しずまりなさい!あそびではありませんよ!」
平井リヨはまたも冷静に
「先生。それでいったいなにがぬすまれたんですか?」
藤江先生は一拍(いっぱく)置くと
「いま、みなさんがごらんになったばかりのものです。なくなったのはカムノオオツノジカの復元像です」
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