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6.その日の晩(2)
「あら、どなたかしら?こんな時間に」
母親は料理をはこぶのを中断して、インタホンに出たが、しばらくすると不安そうにもどってきて
「――あなた、どうしよう?警察の方ですって」
「警察?」
「ええ。なんでも昼の博物館の事件のことで、ヒロユキに話を聞きたいんですって」
父親とヒロユキは顔を見あわせた。
「なんだって?どうしてそんなことをこどもに?まあ、とりあえずわたしが出よう。ヒロユキはここにいなさい」
そう言うと、父親は玄関に出てしばらく応対していた。
ヒロユキは奥からそのようすをうかがっていたが、なにやらぼそぼそと小声で話をしているようで、こちらまではっきりとは聞こえてこない。
父親が
「――えっ?どういうことですか?」
「――なにをおっしゃっている?」
などと、いぶかしげにことばをはさんでいるのが聞こえたが、しまいに
「――あなたがた、いったいなにものだ!?」
と声を荒げたのでびっくりした。
ヒロユキと母親はよりそいあって、うしろからそのようすを不安げにうかがっていたが、そのあと、なぜか父親は急に声を発さなくなった。
そして、しばらくするとそんな父親をおしのけて、見知らぬ男の人が二人、ずかずかとリビングに入りこんできた。
そのかっこうはなんだか黒ずくめで……おかしなものだった。
母親はびっくりして金切り声をあげた。
「あなたがたはいったい!?主人はどうしたの?」
その問いに対して、前に立つ、どうも人相のわるい青白くやせぎすな男の方が平然と
「おしずかに、おくさん。ご主人はなんともありませんよ。ほら、ああしてついてきてらっしゃる」
たしかに、男二人の後(あと)から父親がすがたを見せた。ただ、そのようすはあきらかにおかしい。だまりこくって目の焦点があっていない。
「あなた!」
近寄った母親に対し、やせぎすの男が
「ちょっと、おくさん」
かるく手を上げ目の前にかざすと
「えっ?……あっ……う……」
母親は、とたんにおとなしくなった。
父親と同じく目がとろんとしてしまって、まるで心がここに無いみたいだ。
「――さて、それできみがヒロユキくんだね?」
男はまるでその場に両親などいないかのようにヒロユキに話しかけた。
両親の急変にショックを受けてヒロユキは声も出せずかたまっていたが、うなずくことはした。
おそろしさに気を失いそうだったが、ここでいいかげんな対応をしてしまったら、もっとおそろしいことになりそうな気がして、こどもながら耐えしのんだのだ。
よくわからないが、このふたりが警察ではないことは確実そうだ。
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