03 淫魔の住む魔界

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03 淫魔の住む魔界

〜 クオレ 視点 〜 オニーサンはどうやらコインを持って逃げるのかと思ってたらしい そんな小汚い事はしないし、悪魔だからお金には困らないから、返すに決まってるのにね 翔太が帰ってきた午後17時過ぎ 手を洗い、ダイニングテーブルの上に宿題を広げた彼の手元に両替をしたものを置く 「 翔太、借りてきたコインは返したよ。これでいい? 」 「 えっ……?なんか、増えてる? 」 「 悪魔…どういうつもりだ? 」 百円玉と五百円玉の其々50枚入った棒金に、疑問になる彼等に首を傾げる そんなに驚く事かな? 借りた物を返した程度なんだけど 「 俺も人間界に住むから金を準備しただけ。翔太には借りた分を返した…それだけ 」 「 は?住むって…それに多いだろ? 」 珍しく理解が悪い、オニーサンに分からせる為に足元に置いていたトランクを手に取りテーブルの上に置き、金具を外し蓋を開ければ二人の目は点になった 「 俺って前にも人間界に来ててさ。その時に沢山、宝石を貰ってたのを魔界に置いてたんだよ。それをほんの少し売っただけ。なんて言ったかな……総額2億?かな。銀行口座ってもの作ったから、これは一部だよ 」 「 はぁ……? 」 拍子が抜けた声を漏らしたオニーサンを見て、クスクスと笑う 人間ってお金が好きだし、悪魔の中には何故か稼ぐのが好きな連中もいるから、驚くのも無理はない 「 でもさ、銀行口座ってのに身分証明書やら戸籍とか色々必要じゃん?だから俺の名前を、神崎(かみざき) クオレって名前にした。宜しくね、住所ココだし 」 「 はぁ!!?お、待て…勝手に何してんだ!!そんな簡単に出来るわけ無いだろ!! 」 折りたたんだのを、さっさと作り出して 住民票を向ければ、それを奪うように取られた 「 出来るよ、そんな記憶操作ぐらい簡単。世間では名字が同じ、親戚の認識だよ…多分ね 」 「 悪魔には……法律なんて関係ないのか 」 「 まぁーね。だから、翔太。このお金は貰っていいよ。俺からのお小遣いって事で 」 遠い親戚って事にしてるから、彼の実の親戚と顔を合わせてもお互いに初対面なのは気にならない 親戚なんだ、へぇー?ぐらいしか、脳を操作して無いから俺も都合がいいし、オニーサンも、翔太にもベストな立ち位置だと思ったんだ 働く気はサラサラないから、お金は準備した 身分証である、マイナンバーカードだってその内、通知が届くらしいから今の此処に留まる必要があるものは手に入れたと思うんだ 「 えーと…… 」   翔太の視線は貰ってもいいのか問うように、オニーサンへと意見を求めてる様子  お金を見て素直に喜ばない辺り、真面目君だと思う 「 はぁ……。汚え金じゃないなら貰っていい 」 「 汚くないよ。貰い物を売っただけだし……だーかーら。オニーサンにも上げる 」 「 は?俺にも……? 」 「 家賃と、食費と、後は修理してよ。ベッドも大きいのがいいな、あれ狭く…… 」 驚いた瞳から徐々に睨まれた為に、ハッとしてから翔太の方を向き直し笑う 「 ほら、俺の貰ってる部屋ね?翔太もこれを気に模様替えして貰いな? 」 「 いいの!?マジで!僕、水漏れしてた場所気になってた!! 」 「 チッ……。金なんて貰いたくはねぇが、翔太の為だ。修理費に回してやる 」 「 そうこなくっちゃ 」 渡す時には素直に受け取ってくれたらいい これは淫魔である俺が、ここに居座る為の一つの口実なんだから 受け取った以上、追い払うことも出来ないし何か言われることも無い 古びた教会の後ろにある、一軒家の修理費ぐらいにはなるだろうね 彼自身もお金はあるものの、修理費までには回らなかった様子 「 はぁ、金の話はもういい。晩飯にするぞ 」 「 はーい! 」 「 俺はちょっと出掛けて…… 」 「 食えよ 」 やっぱり食費なんて渡すんじゃ無かったと思う 人間の魂とは違って、喰種や餓鬼とは違い魂の抜けた肉には興味無いんだよね 美味しいとは思えないものをこれから先、食べなきゃいけないことに嫌になりそうだよ 「 神崎を名乗るなら、カトラリーを覚えろ。ほら、今日はクリームパスタだからフォークを使え 」 「 やっぱり……魔界に帰ろうかな 」 「 上等だ、帰れ帰れ 」 「 えー!教えるから覚えよ? 」  「 ……翔太が言うなら、覚える 」 「 御前、翔太には素直だな 」 俺を見て怯えなかった子供だ だからこそ、何となく嫌いにはなれなかった それに、オニーサンの息子ってのが一番強いかも知れないね 楽しそうにフォークと言う銀のカトラリーを持たせて、自らのやり方を見せるように使う翔太を見ながら、戸惑いながらも麦が練られてねちょってした食べ物を我慢して食べた それを見て、時折オニーサンは笑うのだからこの空気は悪くないと思う 「 ………… 」 「 悪魔、眠いの? 」 「 無駄に頭使って眠いんだろ 」 「 へぇ……と言うか、悪魔って呼ぶのもあれだし。クオレって呼んであげようよ 」 「 ………馴れ馴れしいだろ 」 カトラリーの一つであるフォークを覚えて、 その後は翔太の宿題を見ながら数学の勉強を教えて貰っていたら、すっかり眠気が来てウトウトしていた 牡羊の姿でダイニングの端で丸まって寝ていれば、何となく聞こえてきた声に耳はピクリと動く 「 そんなこと無いよ。だって悪魔…いや、彼は翔太って呼んでくれる。僕はクオレって呼びたい 」 「 なら、御前だけ呼べばいい。俺は呼ばない 」 「 駄目だよ、父さん!差別はだめ! 」 「 差別……? 」 「 そう、悪魔だからって差別したら駄目だと思う。クオレは確かにモコモコした羊の悪魔だけど……名前はあるし、一緒に暮らすんだからさ 」 悪魔だと罵られ、淫魔だと笑われてきた それで良いと思い納得していたのに、翔太は随分と優しいと思う そう言う子ほど、悪魔に憑かれそうだとは知らないだろうなぁ 目を開ければ、視線が重なったオニーサンは嫌そうに眉を寄せた そんな彼を見上げた翔太に、羊の姿を止めて軽々と片腕に抱き上げる  「 ふぁ!?えっ…… 」 「 お、おい!! 」    「 翔太は優しいなぁ。餓鬼は好かないが、気に入った。俺の名を呼ぶ事を許してあげるよ 」 軽く見上げて見詰めれば、目を見開いた翔太の表情は直ぐに無邪気に、天使のような笑顔を向けてきた 「 へへっ、ありがと。クオレ、よろしくね! 」 「 うん、翔太。宜しく♪ 」 「 はぁ……。好きにしろ。クオレ、いいか……下手な事はするなよ 」 サラッと名を呼んだ事に、ちょっとだけ驚くも契約についての意味だと理解し頷く 「 そりゃしないさ、オニーサンに嫌われたくないから 」 「 ……… 」 毛嫌いされたままの性行為は美味しくない 少しでも好意を向けられた方がいい だからこそ、翔太には手を出さないし傷を付ける事もしない 俺が欲しいのは…只一人、オニーサンだからね 「 息子の前で……変なことを吹き込むのは止めてくれ 」 風呂に入り上がってから、彼の部屋へと行けば早々に言われた言葉は忠告だった 「 確かに言い掛けてしまったことは謝るけど……別に悪気があった訳じゃない 」 「 悪意が無いのは分かっているが…… 」 「 じゃ、なに? 」 言葉をぼやかす辺りが感に触る 俺は、約束を守って翔太の前では触れる事も、身体の関係だと黙っているのに… 他に何か気に入らないと言うのか? 彼の前へと行き、その場で片膝を付き見上げればオニーサンと視線が合う 「 嫌われたくないって……。元々俺は悪魔なんぞ嫌いだ。それに翔太を味方に付けるな。彼奴も、神職の血筋を引いてるんだ……っ!? 」 腹が立ち、しゃがんでいたのを止め肩に触れそのままベッドへと押し倒す 驚いたように瞳孔を開いた彼は眉間にシワを寄せ、狼が噛み付くように牙を向ける 「 な、にすんだ! 」 「 ……どうでもいいよ 」  「 は? 」 「 誰も、オマエの同意なんて求めてねぇ 」 言ったろ、許可なんて必要無い 翔太と仲良くしてはならないっていう契約はない  あくまでも関係を言わなければいい話だ 「 それ以上、何か命令するなら。生気以外の物と引き換えだ。目や心臓……抜きとっても死にはしないだろ 」 「 !!! 」 肩に触れる手とは反対に、鋭い爪が伸びた指を上瞼と下瞼へと当てる いつでもくりぬけると言うように手を置く俺に、オニーサンの表情は青ざめ  けれど、睨むように方目を目を細めた 「 くれてやろうか。その代わり、翔太を御前側に引き込むな。悪魔は悪魔らしく居ろ 」 「 ………そうか、なら俺は……俺らしくいてやるよ。それがオマエの望みなら 」 「 !!! 」 抜き取らないと思ったか? そんな甘い考えは捨て去ればいい 此れは俺からの忠告だ 悪魔に優しさは存在しないし嘘は付かない 「 あぁぁあっ!!!?ぐっ!!! 」    「 喚くな、死にはしない 」 爪を突き立て痛みで悲鳴を上げ脚やら肩を動かすのを押さえ付け、指を裏へと伸ばし 筋を爪と魔力で切り、抉った眼球から血と残りの筋が垂れ落ちれば、彼の目から涙が溢れ 眼球を失った右目は血の涙を流し目蓋を閉じた   「 この眼球は元には戻らない……。もう一度言う。悪魔を求めるなら俺は悪魔らしく居てやるが……次に何かを願うなら、心臓を貰うからな 」 「 っ……クソが……! 」 「 はっ、望んだのはテメェだろ 」 茶色い色を持つ眼球を口へと含み、キュッと咬めば音を鳴らし噛み砕いては飲み込む 肉体を再生してやる事なんて出来はしない 「 何かを望むなら、それなりの代償を支払え。テメェにとって息子が命より大事ならば……悪魔に取られないよう…その心臓を捧げることだな。神に与えた血肉、悪魔に喰わせればいい 」 クツリと笑い、頬に触れ目元へと舌先を滑らせる 流石に痛みは取り除いてやる為に、眼球のない目蓋へと変わりの義眼を与えてやり、血を舐め耳元へと唇を寄せる 「 いや……もう、血肉は悪魔のものだな 」 「 っ……一方的だな。気色わりぃ…… 」 「 悪魔に憑かれたなら、幸せな暮らしは諦めるといい。もう普通の人間ではないのだからな 」 肉体を許すと言うなら、その血も、髪の毛の一本でさえ俺のもの どう食おうが、触れようが俺のもの 「 オニーサンはね、俺のものなんだよ♡ 」 「 っ……ふざけんな……! 」
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