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〜 神崎 視点 〜
相変わらず、自分勝手でいい加減で、翔太の事を何一つ考える事なく俺だけを魔界へと連れてきた彼奴を一度殴りたい
だが…こうも、生身の身体で此処まで容易く来れる事には素直に驚いた
それに、また淫夢でも見せられて行為をしたのかと思ったが
起きた時に溢れる程に漏れ出した、量の多い精子に嫌でも現実だと実感させられる
「 翔太……飯を食えてたらいいが……。チッ、くそ…… 」
まだ10歳の息子を家に一人置き去りにしてるのが気になって仕方無いが、それより直腸に溜まっているコレをなんとかしたい
あの馬鹿は、ヤるだけヤッて姿が見えないし
少しは連れてきたなら気遣えばいいだろう
記憶の中で、魔界は危険だと伝えたような言葉を言われたが…そんな事を言うぐらいなら此処にいろ
俺が食われても知らんぞ
「 はぁ……。風呂か、トイレなんてねぇよな…… 」
魔界で風呂なんてあった、という話も
トイレをしてるような雰囲気すらなかった
排泄なんてするのか?と疑問さえなるが、そうなると俺の風呂やトイレは一体どこですりゃいい
このまま部屋にいろってか?絶対に嫌だな
「 だが、この格好では出たくない 」
自分の身体の匂いすら、御世辞にも良いものと言えないが、それより体中に残る激しい行為の跡を晒すのは御免だ
元々爪の長いやつだ、引っかき傷や、噛み跡、下手なキスマークさえアチコチに残った傷だらけの身体に呆れる
深く息を吐き、自分の服が何故か無いのを見て仕方無く目についたタンスへと近づく
腰の痛みが気になるが、アイツの部屋なんだ…好きに使ってもいいだろう
「 ………だろうとは思っていた 」
引き出しを開ければ、何もないからだ
タンスの意味があるのか分からないぐらい、次の段も、その次の段すら何もない
「 あ…… 」
最後から2番目の段から急に重くなり、軽く開けばまるで宝箱のように、適当に宝石やらジュエリーの数々が詰め込まれていた
見てはならない物を見た気がして、静かに閉め、最後の段も開けるのを止めた
「 ……一体、如何すりゃいいんだ 」
声を発しすぎた、なんて言いたくはないが喉も乾いているのも事実
何か飲みたいし、風呂にも入りたい、出来ればトイレも行きたいと人間らしい欲求を考えていれば、部屋の扉はノックもせずに開いた
「 っ……! 」
隠す事なく全裸で立っていた俺の前に現れたのは、どこかアイツの雰囲気に似た赤髪の短髪をした、若い青年だ
尻尾の先端がハートマークの事を見れば、淫魔だとは想像が付く
「 にん、げん……? 」
不味い……
頭の中で鳴り響く警戒音に身が硬直したまま動けない
俺を人間だと知った瞬間に、赤い目の色は色濃く染まり光る
「 何故……弟の部屋に人間がいる。答えやがれ、人間!! 」
「 は、弟……? 」
ガーターベルトをしたような青年は、踵のある膝までのロングブーツを履き、ズカズカとこっちにやって来た
身を隠すタイミングすら失ったまま、一つの単語に傾げる
「 嗚呼、そうだ!俺の弟…牡羊の悪魔=クオレだ!! 」
やっぱり淫魔は、兄弟がいたのか
それも彼奴より淫魔らしい外見じゃないか
女が見たら気に入りそうだなって内心思うが、彼奴の兄弟と知り、どこか心に余裕が生まれた
「 その牡羊の悪魔が、俺を此処に連れてきたんだ。俺は望んでない 」
「 は?クオレが…人間を連れてきたのか? 」
「 そうだ。一方的にだ、少しは謝って欲しいくらいだな 」
俺の感は当たっていた
あんな問題児の弟がいるなら、兄はしっかり者で冷静なパターンが多い
それに多少賭けてみた
理由は淫魔なのに、最初から襲おうとはして来なくて敵か、味方なのか判断しようとした表情に気付いたからだ
色濃く染まった赤い目は、徐々に光が消え
ごく普通の色味に戻り、俺の方へと見上げてきた
「 確かに、あの馬鹿ならしそうだなぁ。それに…オマエからは彼奴の魔力を感じる。掘られたな 」
「 五月蝿い 」
「 ふっ……。信用してやる 」
あの馬鹿、という時点で弟が馬鹿だと自覚してるのか
というか、やっぱり兄に馬鹿と言われるぐらいの馬鹿だったのか
呆れながらも呆気ない程に簡単に信用した兄と名乗る淫魔に驚く
「 は?そんな容易く信用していいのか? 」
「 人間を連れてきたのは一度だけじゃねぇからな。彼奴は基本的に…気に入った人間を寝床に連れてくる習性がある。その格好じゃ居づらいだろ…これを羽織ってついてこい 」
「 ……… 」
嗚呼、聞きたくは無かったかも知れない
寝床に連れてきたのが俺だけじゃないと知り、何故か胸はギュッと掴まれた様に傷んだ
そうだよな……最初から彼奴は数百年ぶりの魂と言っていた
何一つ、俺を見てはいないんだ……
いや、俺も彼奴自身を見てないからお互い様か
布団のシーツを引っ張り、向けてきた淫魔の手から受け取り、身体を隠すように肩から巻き、後ろを着いて歩く
「 此処はサタン城。魔界にある、唯一の建物と言っていい。先に風呂か……… 」
此処が、彼奴が暮らし…サタンが住むとされるサタン城
聖書とは雰囲気は似てるが、殺風景だな
古いレンガを積み重ねたような城は、幾つもの部屋と廊下に分かれている
パっと見ただけじゃ迷子になりそうだ
「 風呂は彼奴の風呂を使うといい。他の兄弟の場所を使うと犯されるか、殺されるぞ 」
「 ……一人一人あるんだな 」
「 此処では″体″で呼べ。俺達は人じゃねぇ。まぁ、…上級悪魔は与えられているからな… 」
一体…神は、柱と数えるが
魔界では一体、二体と言うのか
彼奴もそんな事を言ってた気はするが、話の内容なんて興味無くて覚えてない
もう少し聞く耳を持ってやればよかったと内心思い、連れて来られた扉の前に立たされた
「 此処が彼奴の私有してる場所だ。下僕が居るだろうが気にするな……。クオレの玩具だと伝えればいい 」
「 入らないのか? 」
「 俺は入れない。そういうルールだ 」
兄弟なのに、弟の部屋には入れないなんて…と思うが…寝室にはズカズカと入って来たな
そこと何が違うのか疑問になるが、深く聞く気もなく、ドアノブを回し中へと入る
「 世話になった 」
軽く会釈をしてから背を向ければ、一瞬淫魔は驚いた顔を見せた気がした
礼を言われる事が初めてなのかだろうか…
どっちでもいいがな
「 ……変な部屋だな 」
中に入り、一番最初に現れたのはもう一つの扉だった
ドアノブを回し、その奥へと行けば今度は長い廊下が現れ、左右に扉がある
「 どこが風呂だ? 」
あの淫魔に聞けば良かったと思うぐらいだ
扉を開けようとしても鍵が掛かってる為に開く事が出来ない
本当に風呂があるのかも疑いたくなる
一つ一つ確認するように、ドアノブに触れていく
最初に入ってきた場所より随分と奥に進んでるような錯覚になる
そんな構造の城には見えなかったからこそ、そう思うのだろう
出口の無い迷路を進むようで、開いた扉の先は、更に廊下と部屋がある
左右の感覚が狂い始めるのは時間の問題だった
「 くそ……風呂ぐらい入らせろ!! 」
とうとう苛立って声を上げれば、それまで迷路だった部屋は一瞬で消え
目の前には、湯船が立つ風呂が見える
ガラスの扉があるが、横には服を置くスペースさえある
「 どうなってんだ? 」
何が起こったのか分からないが…風呂が有るならそれでいい
他に誰もいないのを確認し、シーツを脱ぎ
ガラスの扉を開け、中に入る
「 ひろっ…… 」
もっと一人分の風呂かと思ったが、数十人は入れそうな湯船
まるで銭湯のような造りにどこか感心し、桶なんてものは無い為に、手で身体に湯をかけ、脚からそっと中に浸かる
「 悪くない…… 」
温度もちょうど良く、それにて湯は柔らかで滑らかな感じがする
匂いも甘く、花の入浴剤でも使われてそうだ
「 いい匂いだ。それに、肌が気持いい 」
どんな成分かは分からないが、男の肌ですらモチモチでスベスベとした触り心地になるほど、綺麗になる
「 あ……傷が……ない? 」
ふっと胸元に視線を落とせば、キスマークやら引っかき傷は無い
弄られまくった乳首すら、瘡蓋が消えた
この風呂にはそう言う効果があるのかと思い、しっかりと使っていればふっと笑い声が聞こえた
″ ニンゲン……。御主人様が、また…ニンゲンを連れてきた ″
「 誰だ!? 」
突然の声に驚き、辺りに視線をやれば風呂場に靄が現れ、そして声の主は現れた
「 ……は? 」
一瞬、餓鬼とか、悪魔系のやつが現れるのかと思ったが
目の前に立つのは、下半身が馬の姿をしたケンタウロスのような若い青年だ
細身のスラッとした体型に、引き締まった馬の身体
金色の目と、白い蹄以外は黒に統一されている
ケンタウロスは森に居そうなイメージだったが、随分と不似合いな場所にいるな
「 ニンゲンの世話をしろとは……。御主人様から言われてない 」
「 君が、あの兄が言ってた下僕か? 」
「 兄?アイツか…そう。私がクオレ様の下僕……ケンタウロス族のシュヴァルツ 」
黒、そのまんまの意味だな
あの馬鹿が名付けそうだと内心思う
と言うか、下僕なのに兄の事はアイツって言うんだな…
此処の階級は複雑そうだと思い、湯船の中で身を崩し、傾げる
「 それでシュヴァルツ。俺を追い払うのか?御前が、風呂まで来させたんだろ 」
「 ……御主人様の魔力を感じたから。それに汚れていては…交尾の御相手として相応しくないから…。…ニンゲン、要件を言え、御主人が連れてきた奴なら、世話してやる 」
なんだこの、下僕のくせに…とは言っては悪いが使用人だろうに…
客には上から目線なのか、いや…俺が人間だから問題なんだろうな
ゆっくりと立ち上がり、湯船から上がる
案外、俺と同じぐらいと思ってたが…並んで見れば見下げるほどにデカいじゃないか
流石……下半身は馬…か
「 なら、お言葉に甘えるが。飲み物がほしい、後はトイレ 」
「 飲み物か……分かった。服は与えた、トイレはこっち 」
「 ………此処では、服は出せってことな。無理だろ 」
いつの間にか着せられていた服装は、此処の服なのか軽装なVネックとボカっとしたズボンだった
来たときの服が何処にあるか分からないが、こうポンポン出すような世界なら
人間は、生活出来ないな
案外、普通のトイレがあって…それを借りてから無駄に広いダイニングスペースにある長テーブルに座らされ、あの使用人は飲み物を置いた
「 なんだ?赤ワイン? 」
グラスに入ったそれを見ては傾げれば、シュヴァルツは当たり前の様に告げる
「 クオレ様の大好物。処女の生き血だよ。新鮮なものしかお飲みにならない 」
「 他の物はないのか 」
「 なら…選べ。聖女の体液、若い男の精子 」
「 頼む、水でいいからくれ…… 」
「 ワガママだな 」
いや、飲めないだろ!!
それを日頃から普通に飲んでる彼奴はなんなんだ、淫魔ってそんなのを飲んでるのか!?
もう、ディープキスなんてしたくねぇ
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