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魔剣使いが天使と出会う話(ファンタジー)(魔人ケルトは愛を謳うシリーズ)
しまった。ケルトさんたちとはぐれてしまった。
「ここはどこだ……」
ケルトさんとユマさんの姿が見えなくなり、あてもなく森の中を彷徨っていた。次の町までまだ距離があり、野営は避けられない。だというのに二人は野営の準備をすっぽかしてどこかへ行ってしまったのだ。
「ん……?」
ふと、僕の周りにいる水の精霊がざわついていることに気づいた。近くに魔術師でもいるのだろうか。警戒して、鞘に収められている魔剣の柄に手をかけて進む。
木に囲まれた野道の先には湖があった。
その湖で、水浴びをしている少女の影がある。咄嗟に木陰に隠れた。悪趣味なので再び覗きはしないが、十二歳程度であろう少女は変わった身なりをしていた。
裸の背中に生えた、純白の翼。
雫は生まれてこの方、天使を見たことがなかった。天使は希少価値が高く、滅多に遭遇できる存在ではない。
なぜこんなところに天使が。
深呼吸していたら、背後の気配に気づけなかった。
「誰?」
「わあっ!」
振り向けば、なにも衣服を纏っていない天使がすぐ傍にいた。恥じらいがないのだろうか、発達途中の濡れた肢体を隠そうともしない。慌てて目をそらした。
「あなたも一緒に水浴びします?」
天使が僕の手に触れようとしてきたので身を引く。天使は首を傾げた。
「いけません。僕は……魔剣の使い手ですから。天使様には毒です」
魔剣は負の気が強い。天使という生き物は負の気に弱いと聞いたことがある。彼女の身になにかあってはいけなかった。
しかし天使は躊躇いなく僕の手をとり、美しく微笑んだ。
「あなたは優しい方なのですね」
僕の考えていたことは、簡単に払拭されてしまった。
「あなたの名前はなんというのですか? 私は……」
「……その前になにかお召しになってください」
いつまでも裸でいる彼女の肩に上着をかけて、僕はやっと天使と視線を合わすことができた。
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