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勇者と魔王の最終決戦
「いい加減降参したらどうだ? 貴様の仲間は皆、死に絶えてしまったぞ」
満身創痍でうつむいている勇者に、俺はそう投げかけた。
死闘を繰り広げた結果、勇者の陣営で生き残っている者は勇者本人のみとなった。戦士や魔法使いなんかは、既に息絶えている。俺の陣営も、奴らにしてやられたせいで配下は一人も残っていなかった。
俺自身もボロボロだが、勇者ほどではない。こいつにトドメを刺すことくらい簡単にできるほどの余力を持っていた。
しかし、勇者は掠れた声でこう言った。
「……ああ、ようやくエサにありつける」
ギラリと光る金の眼と合った。
獰猛な肉食獣と、同じ目だった。
「なに……?」
わけも分からないまま、自分の身体が突然力を失い、座り込んでしまった。
先ほどまでうつむいていた勇者が俺だけを見つめて近づいてきた。
「ずっとお腹がすいていたんだ。立場上、食事にありつけなくてね」
「……貴様、まさか『捕食者』か!」
『捕食者』とは、すべての生き物を、肉体のみならず精神までも喰らい尽くしてしまう種族のことだ。捕食者は相手の力を根こそぎ奪う特殊な眼を持つ。へたな魔族より厄介な種族で、彼らを恐れた先代の魔王が滅ぼしたはずだったが……生き残りがいたのか。
「君は、そこらへんの魔族よりずっとおいしそうだ」
「待て! 俺を食べる気か?」
「ああ、怖いのかい? 大丈夫」
勇者は目を細めて微笑む。
「僕らに食べられてるときって、すごく気持ちいいらしいから」
飢えた男の微笑に、背筋が凍りついた。腹の底から湧き上がってくる恐怖で身体が震える。
俺は完全に、捕食される生き物となっていた。
「ふざけるな! 貴様なぞに……」
悔しくて叫ぶが身体は動かない。息がかかるまでに距離をつめてきた勇者は、俺の顎を掴んで上を向かせる。
そして、恍惚とした表情で舌なめずりをするのだった。
「イタダキマス」
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