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男のいない町(SF)(雪路とありあシリーズ)
「なぜこの町には男がいないの?」
凛檎町に連れてこられてから、私の不安はそこにあった。この町には男の影がひとつもなく、見目麗しい少女たちが大半を占めていた。だから私は転校先の学校で、クラスメイトへの挨拶とともに質問をしたわけだが。
どうやらそれがいけなかったらしい。問いかける私をまるで皆、奇妙な生き物を見るかのような目で見るのだった。おかげで友達はいない。こんな歪な町で心を許せる相手なんていないほうがいいかもしれない。そう虚勢を張るしかなかった。一人寂しく、港から見える海を眺める。
「金時堂ありあだな?」
声がするほうを向けば、黒の学ランに学帽、冴えた朱色の羽織を肩にかけた少女がいた。緋方雪路。転校してきたばかりの私でも知っている。一見すると少年のようで、学校の中でも一際目立つ変人だ。そんな人間が私になんの用があるのか。雪路は私に耳打ちした。
「あまりこの町で男の話はしないほうがいい。消されるぞ」
「消される……?」
「この町に、さ。ちょっとついてきてくれ」
腕を引っ張られ、しかたなくついていく。たどり着いたのは雪路の家だった。
「僕の家にはなぜか隠し部屋があってさ。なにに使われているのかは分からないけど」
雪路が連れてきたのは、その隠し部屋だった。隠し部屋にはたくさんの古い書物があった。
「すごい……」
「昔、ここで男に会ったことがあるんだ」
「どういうこと?」
「僕にも分からない。たまたま見つけたんだ。たまーに会って話したけど、そういやここ最近見てないな」
雪路は目を輝かせて続ける。
「だから僕は、この世界に男がいるのを知ってる。やっぱりこの町にはなにか秘密が隠されてるんだ。僕は外の世界を知りたい。教えてくれよ。君が見てきた世界を」
そう囁く雪路の表情は、年相応の子どもらしさがあった。
私は一人じゃない。そう思えば、途端に勇気がわいてくるのだった。
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