研究所を脱出する話(SF)(雪路とありあシリーズ)

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研究所を脱出する話(SF)(雪路とありあシリーズ)

 私は研究所のある密室に閉じ込められていた。  これから私はどうなるのだろう。どうしようもない不安に駆られると同時に、もうどうでもいいやと諦めが身体を重くさせていた。  すべては両性具有の身体を持って生まれてきたせいだった。  特殊な身体だと目をつけられた私は研究所に幽閉されてしまった。  どうせ明日から身体をいじくりまわされるのだろう。どうせ、私の人生なんかそんなものだ。  暗い密室で灰色の壁を眺めていた。その時だ。  重い扉が、音を立てずに開いた。  警戒して立ち上がると、十六歳ほどかと思われる目つきの悪い少女が現れた。  丈の長いハイネックパーカーを着ており、下には黒のパンプス以外なにも履いていない。変わった身なりの少女だった。 「お前が霧翠愛砂だな」  少女は私に手を伸ばして、早口で囁いた。 「ここからお前を脱出させる」 「……なんですって?」 「時間がない。行くぞ」  強引に腕を引っ張られ、部屋から出た。少女は小柄なわりに力強い。  流れるままに少女のあとをついていく。状況に流されるのは得意だった。どうせ研究所に捕らえられた身だ。少女についていってひどい目に合ったとしても、どうでもよかった。 「おい! お前たち!」 「おっと」  研究員に見つかったが、少女がすばやく研究員の懐に忍び込み、華麗な足技を決めていた。動きが人間離れしているところを見ると、彼女はヒューマノイドなのだろう。 「あんまりだらだらしてられないな」  突然少女が私を姫だきにすると、なんの躊躇いもなく廊下の窓を足で割り、そのまま外へ躍り出た。  何階かすら分からなかったが、それなりの高さがある。文句を言わずにはいられなかった。 「なにやってんのよおおお!」 「怖かったら空でも見てろ」  落ちていく中、空を見上げていた。空ってこんなに青かったっけ。しばらく灰色の壁ばかり見つめていたせいか、目が暗んだ。
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