堕天使のけがを手当する話(ファンタジー)(魔人ケルトは愛を謳うシリーズ)

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堕天使のけがを手当する話(ファンタジー)(魔人ケルトは愛を謳うシリーズ)

 私は愛梨。堕天使だ。  堕天使の体液は生命の肉体を腐敗させ、溶かしていく性質がある。だから今、私は現状に困っていた。 「ううー……」  右足の痛みに唸り声をあげてしまう。敵対勢力との戦いで不覚にもケガをしてしまった。包帯とガーゼを借りたかったが、人外の自分より脆い人間に使わせたほうがいいだろう。万が一生きている人間が触ってしまえば大変なことになる。砦の隅で黒いドレスの裾を引っ張り、止まることを知らない血を拭った。  この前、ケルトさんに仕立ててもらったばかりなんだけどな。 「愛梨、ここにいた」  名前を呼ばれて俯いていた顔をあげると、柔和な雰囲気の少年が私を見下ろしていた。空色の髪が、月に照らされ透けていた。 「雫、さん」 「雫でいいよ。ケガしたところ見せて」 「でも……」  断ろうとしたが、雫さんの有無を言わさぬ視線に負けて、とうとうケガをした右足を見せる。膝への直撃は免れたが、矢は脛に刺さった。それを引っこ抜いて相手の首に突き立てたので、矢自体はない。  雫さんはケガの状態を視診してから銀色の光沢を放つ手袋を装着した。  見たことのない手袋だったので尋ねてみた。 「それは?」 「これは君用につくったやつ。毒耐性のある糸に闇精霊のまじないをかけてある。ついでに今、君の血も採取しておくから」 「なんで?」 「君の血を分析したらより精度の高い治療用の道具が作れるだろ」  雫さんはさも当たり前のように説明する。その真面目くさった表情が面白くて、つい笑ってしまった。いろいろと悩んでいた私がバカみたいだった。  手馴れた動作で処置している雫は、不満そうにしていた。 「なんで笑ってるの」 「雫っちが面白いから」 「雫っちってなんだよ……」  雫は呆れていたが、声はとても優しかった。 「ありがとう、雫っち」  私は愛梨。堕天使だ。  だけど私には、大切な仲間がいる。
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