勇者、はじめました

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「ふぅー!」 匠はVRゴーグルを外し大きく深呼吸した。 初めての体験、それは少々疲れもしたが非常に楽しめた。 後ろを見れば遊びに来ていた友達、涼(リョウ)がベッドの上でまだパソコンゲームをやっている。 ―――喉が乾いたし、飲み物でも持ってくるか。 邪魔しないようそっと部屋を出る。  二人分の飲み物を持ち部屋へ戻ると、涼もベッドの上に座り休憩していた。 匠も涼の隣に座り飲み物を渡す。 「ありがとう、そしてお疲れ。 初めてのVRはどうだった?」 「滅茶苦茶楽しかった! 涼が『今日から勇者、はじめました』を勧めてくれたおかげだぜ!」 「それはよかった」 かなり乗り遅れではあるが、発売されてから一ヵ月程が経ち涼に紹介され始めることになったのだ。 涼は随分前からやっているらしいため、今日一日の進み具合に匠は内心で小躍りしていた。 「でもさ。 どうして、お前とゲーム内で合流しちゃいけないんだよ? 一緒にやった方が楽しいと思うぜ?」 「あー、それは・・・。 匠とは、普通に会って遊べるからそれでよくない?」 「いや、よくない。 会って遊んでも、別々でパソコンゲームしていたら意味ねぇじゃん」 誤魔化すように涼は飲み物を口に運ぶ。 「ま、まぁいいんだよ。 ・・・あ、そう言えば、イベントのログインボーナスまだもらっていなかったや」 「え、そんなのあるの?」 「あるよ。 始めたばかりの人でも、イベントは受けられる」 「マジで!? なら早く言えよ! 早速行かなきゃ! ちょっと涼、パソコン貸して!」 「あ、それは駄目だって!」 机まで戻るのが面倒で、ベッドの上にある涼のパソコンでゲームにログインしようとした。 だがその瞬間、ゲームの画面を見て固まることになる。 「・・・え」 「・・・」 画面には、先程まで一緒にいたエミリアの姿があったのだ。 「ええぇぇぇ!? エミリアって、涼だったの!?」 「ッ・・・」 「どうして!? 涼、お前・・・いつの間に、ロリが趣味に・・・」 「ちげぇよ!」 「え、じゃあ何で? まぁ別に、女キャラを作るのは人の自由だし、いいとは思うけどさ・・・。 アルバートは俺だって、気付いていたのか?」 「・・・あぁ」 リアルとゲームのキャラの性別が違うことなんてよくあることだ。 匠はVRをやるのは初めてだったが、他のゲームでは性別が違った人を知っている。  だが自身が動く感覚になるVRで性別が違うとどういう風になるのか、想像もつかなかった。 「どうして言ってくれなかったんだよ。 異様に好意的だったし、すっげぇ優しくしてくれるから俺は勘違いしそう、に・・・。 って、え・・・?」 恐る恐る涼の顔を見ると彼の顔は真っ赤だった。 「・・・そ、そうだよ。 ・・・俺、匠のことが好きだから」 「はぁぁぁぁぁ!?」 「だ、だからさ、匠。 よかったら俺と」 「無理無理! ごめん、本当に無理! 俺、そういう趣味はないし!」 いきなり匠が後退ったからか、ベッドが沈み涼が持っていた飲み物が匠の服にかかる。 だがそれでも気にしないようだ。 「どうして俺だと駄目なんだよ? エミリアとは、すげぇ仲よくしていたじゃん」 「それとこれとは話が違うだろ!」 「俺は本気なんだ。 でなかったら、スライム草原で匠のことを待ち伏せしていないし、装備だって余分に買わなかったし、ギルドにも入っていた」 「それら全て、俺のためだったのか・・・」 「そうだよ。 それでも匠は、俺のことを見てくれない?」 「見れない。 ごめん、本当に見れない」 「現実の俺が無理なら、せめてゲーム内だけでも」 「もうエミリアを恋愛対象として見れねぇー!!」                                                                                                    -END-
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