勇者、はじめました

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勇者、はじめました

匠(タクミ)が目覚めると、辺り一面真っ白な世界が広がった。 「おぉ、もしかしてここは・・・!」 アニメや小説などでよく見る白の世界。 ついに自分が来たのかとワクワクしながら起き上がると、目の前に神がいた。 いかにもといった風体の老人で、お約束のように頭の上には輪が浮いている。 「よくぞ参った。 ここは天界、お前さんは死んだのじゃ。 死んだ原因は・・・」 「あー、そんな説明はいらないから! 早く俺を、異世界へ飛ばしてくれ!」 その言葉に神は困った様子を見せる。 「待ちなさい。 物事には順序というものが」 「そんなのスキップスキップ!」 「・・・そんな機能はない」 「はぁ? マジで!? 言っておくけどな。 『死んで目が覚めたら天界にいた。 そこで神様と出会い、異世界へ飛ばされる』 なんていうのはお約束の展開だから! そんなのアニメや小説だけでいい!  もうお腹いっぱいだ、見飽きたし聞き飽きた! どうせ死んだ原因は交通事故とかなんだろ? そんなの、分かり切っているって」 それに神は溜め息をつく。 「・・・分かった。 では問おう、好きな職業を選べ」 「俺、勇者になります!」 神はもう限界といったように頭を抱えた。 「勇者は職業ではなく、ここへ来た者全てが辿る道のこと。 当たり前じゃ。 平凡な村人を希望されても困る」 「あ、じゃあ剣士で! 一番勇者っぽいし!」 「分かった。 では最後に、お前さんの名を聞こう」 ―――普通に“匠”だとつまらないからなぁ。 ―――異世界へ飛ばされるんだったら、それっぽい名前を名乗っておきたい。 「俺の名前はアルバートです!」 その直後、アルバートは異世界へと飛ばされた。 もう少し色々と情報を聞きたいところだったが“スキップしてほしい”という願いが叶えられたのかもしれない。  まるでスカイダイビングのような落下感、広がる景色は空。 凄まじい速度で地面が迫ってくる。 「うわああぁぁぁ、危なぁーい!」 真下に人が見え声を出したが既に遅い。 そのまま派手な土埃を上げ、一人の少女とぶつかってしまった。 見た目的に歳は自分より少し下くらいで、水色のショートカットが特徴的だ。 「ご、ごめん! 大丈夫? 怪我はない?」 慌てて起き上がり彼女に手を貸す。 あんなに派手に衝突したのに彼女はケロッとしていた。 「はい。 人との意図しない衝突は、争いを避けるために被害がないんですよ」 思えば確かに自分もどこも痛くない。 正直匠の知識からすれば意味不明だが、ここが別の世界となればそのようなことも有りなのかもしれない。 「そっか、ありがとう。 あ、俺は今日から勇者を始めたアルバート! 君の名前は?」 「私はエミリアって言います」 「エミリアか、よろしくね。 ・・・ところで、早速で悪いんだけど街はどこにあるのか教えてくれる?」 見渡してみれば一面の草原で、街らしきものは影も形も見えない。 チュートリアルもないのが不親切な気もするが、リアルと思えばそれも有りだ。 幸運にも優し気な少女と知り合えたのは嬉しかった。 「あちらですよ。 よかったらご案内します」 「いやぁ、本当にありがとう。 助かったよ。 勇者なんて初めてだから、右も左も分からない状態でさぁ・・・。 って、うわぁ!?」 話しながら歩いていると柔らかいものに当たった。 見るとどうやら緑色のスライムのようなもの。 可愛らしい顔をしてぷよんぷよん跳ねている。  大きさはバスケットボールを二回り程大きくしたくらいだ。 「あれ、コイツ可愛いじゃん。 もしかして敵だったりする? 誰がこんなヤツに殺されるかっての」 余裕こいてスライムを撫でようとすると、スライムはいきなり高く飛んだ。 そのままアルバートの真上に落ちる。 「ぐわぁ」 「スライムはレベル1のモンスターなので、人に危害は加えません。 だけど乗っかられると重くて厄介なんです。 今助けますね」 エミリアが何かブツブツと唱え具現化した炎は、アルバートの上にのしかかるスライムの身体を抉り飛ばした。 スライムは体を保てなくなったのか、ドロリと地面に流れ染み込んでいく。 「え、凄い! てっきり、エミリアは町娘か何かだと思ってた。 もしかして君も英雄の一人?」 「はい」 「レベルはいくつ?」 「43です」 「え、俺はまだ1だし大分上じゃん!」 「まだ私は初心者ですよ。 レベルはすぐに上がります」 エミリアは笑顔でそう言った。 この世界でどの程度を初心者というのか分からない。 だが自分に比べると随分と場慣れしているし、落ち着いている。 ただそうなると少々疑問が沸いた。 「でも、どうしてそんなレベルの人が、レベル1のスライムがたくさんいる草原なんかにいるの?」 「あ、え、えっと・・・。 あ、クエストを丁度終えたばかりで、今から街へ戻るところだったんです」 「そうなんだ」 「それより早く行きましょう。 まずは、武器と装備を整えないと」 何となく腑に落ちなかったが、促されるまま街を目指すことになった。
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