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「……何でそんなこと」
極力感情を表に出さないよう、そっけなく応えたつもりだったが、うまくいったかどうか。
図らずも俺が即座に反応出来なかったことで、パティスはますます疑念を強めたのだろう。
「別に……。ただ、何となく……」
ふいっと横を向くと、そうつぶやいたきり黙り込んでしまった。
何かを思案している風なその態度に、俺は落ち着かない気持ちになる。
「後悔、してねぇって言ったら……嘘になるな」
それで、かもしれない。
いつもなら絶対に言えないような台詞が、素直に口をついていた。
「えっ?」
自分自身そのことに驚いたのだ。
パティスが思わず歩みを止めても、俺はすぐには反応出来なかった。
「……だから、その……」
二、三歩彼女を置いて歩いてしまってから……俺は慌てて立ち止まると、気まずさに振り返れないまま、次の言葉を模索した。
「……良かった」
しかし背後から突然そんな声がして、背中にパティスの温かな体温が触れたからたまらない。
今までの健闘虚しく、俺の頭の中は一瞬にして真っ白になってしまった。
「お、おいっ」
思わず上ずった声で呼び掛けたけれど、背中から回された腕にほんの少し力が込められただけだった。
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