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世界を観察するもの
ぼくはこの王国で生まれた。
この王国では、みんな女王のために生まれ、女王のために働き、一生を終える。
ぼくは親の姿を知らない。
物心ついたときには、もう働かないといけない状況になっていたし、そこで目にするものたちが、ぼくの世界の全てだった。
ぼくの最初の記憶は食料庫だ。
そこには王国の全食料が貯蔵されており、そこから王国中に分配される。
ぼくは食料係として、集められた食料の分配先を管理していた。
仕事は、基本的に誰も教えてはくれない。
みんな、目の前の自分の役割を果たすことで手一杯だからだ。
ぼくは、年齢の近そうな、クロンと呼ばれていたやつのやることを、とりあえず見よう見まねで真似しながら、仕事を覚えていった。
ぼくらの1日は、食料の仕分けから始まる。
狩猟部隊が王国の外から採集してくる食料を、備蓄食糧として貯蔵庫に運ぶものと、女王が食べるもの、一般のものが食べるものとに選り分ける。
そのあとは、食料を分配する。
ぼくが女王の元へ運ぶことは、今のところない。
ぼくは、まだ生まれて間もない子どもたちの元へ、クロンと一緒に食料を運んでいた。
子どもたちの元へ運ばれた食料は、世話係が食べやすく加工し、子どもたちに食べさせる。
ぼくも生まれた頃は、このように食料を食べさせてもらっていたのだろうか。
覚えていないのでわからないが、ここにいる子どもたちも、みんなぼくのように、親の顔を知らないまま大きくなり、同じように働き始めるのだろう。
子どもたちの元へ食料を届けたあとは、王国の中を点検してまわった。
壁のヒビや、浸水などを補修しながら、その都度、狩猟部隊が戻ってくれば、食料の分配をする。
その合間を縫ってぼくらも食事を取る。
クロンとぼくは、大抵一緒に行動した。
と言っても、ぼくが何も分からないので、ただクロンの後をずっと付いていくうちに、それが当たり前になっただけなのだが。
クロンは、いつかは自分も狩猟部隊として外の世界に出たいと言っていた。
ぼくには、まだ外の世界のことは何も分からなかったが、クロンが行くなら、ぼくも狩猟部隊に行きたい、と何となく思うようになっていた。
あるとき、王国の補修作業に当たっていると、王国内がにわかに騒がしくなっているのに気が付いた。
どうやら大雨が降ったらしい。
瞬く間に王国内は水浸しになってきた。
ぼくとクロンは、急いで食料を非常用の食料庫に運んだ。
子どもたちを避難させるもの、壁を補修するもの、王国内総出で対応にあたった。
食料を運び込んだあとは、ひたすら壁の補修に奔走した。
どのくらいの時間が過ぎたかわからないが、気付くと浸水は治まっていた。
懸命の作業にも関わらず、食料の何割かは流されてしまったし、いくらかの子どもたちの命も奪われたが、幸い女王は無事だった。
ぼくにとっては初めて経験する自然の脅威だった。
負傷者も多数出たが、ちょうど外に出ていた狩猟部隊の被害は特に大きく、ほどなくしてクロンは、狩猟部隊に配属されることになった。
必然的に、食料の管理係も体制が新しくなった。
新たに配属されたものは、ぼくのやり方を見て仕事を覚えていく。
ぼくがクロンを見て覚えたのと同じだ。
やがてぼくは、ミリーというやつと行動を共にするようになった。
そもそもミリーは狩猟部隊だったが、この前の浸水で負傷し、足が1本動かなくなってしまった。
それで食料係に配属になったそうだ。
ぼくより経験がかなり豊かなミリーは、ぼくの知らないことも色々知っていた。
ミリーが言うには、この大雨で命が助かっただけども良かったそうだ。
王国の外でいきなりオオアメガ降り、狩猟部隊の仲間たちが流され、溺れていく様を見るのはとても辛かったらしい。
死んだ仲間たちがどうなったのか聞いても、ミリーは言葉を濁して教えてくれなかった。
ミリーは、大雨の時の不思議な体験を話してくれた。
この王国内部はもとより、この世界はほとんど日が当たらない。
ただ、大雨の時は、世界がとてつもなく明るい光に包まれたそうだ。
狩猟部隊が外に出るときも、たまに光が射すことはあるそうで、その光のあとには、大抵何らかの収穫があるのだそうだ。
ただその大雨のときの光は、これまでとは違っていて、世界全体が明るい光に照らされ、その後急激に雨が降り注いだとのことだった。
ぼくは外に出たことがないので、その明るさのことは分からなかったが、それは天変地異というものなのだそうだ。
ただミリーが言うには、この世界はいつからか変わってしまったそうだ。
かつては、世界はもっと広かったらしい。
そして、常に外の世界は明るかったらしい。
ミリーは、微かにそのときの記憶があるそうだ。
ある日、とてつもなく大きな地震のようなものが起こり、冗談ではなく世界が浮き上がったそうだ。
そのあとは、気付けば世界は暗闇に包まれ、王国が崩壊していたらしい。
それから、崩壊した世界のなかで、みんなは王国を再建させた。
ミリーは、この天変地異の全ての原因は、とてつもなく巨大な怪物が引き起こしているのだと言った。
ミリーは見たことがないが、この世界の異常な事態は、全て巨大な怪物の手によるものらしい。
ぼくには、にわかに信じられない話だったが、ミリーは真剣だった。
ただ悪いことばかりでもなく、この世界になって狩猟部隊の生存率は飛躍的に上がったらしい。
以前の世界では、文字通り命がけで狩りをする必要があり、敵対勢力と出会うことも多々あったそうだが、今の世界では敵の姿を見かけることはなくなったという。
外に出れば、必要なだけの食料が収穫でき、無事に王国まで帰ることが出来るようになっているそうだ。
そんな中での、先日の大雨はまさに青天の霹靂だった。
それでも、王国はみんなの献身的な働きにより、もとの姿を取り戻した。
気付けば、ぼくも食料係ではベテランの域に達していた。
ミリーは、姿が見えない日がしばらくあったかと思うと、動かなくなった足を切り落としてきた。
足はどうしたのかと聞いても、ミリーは答えてくれなかった。
やがて、ぼくも狩猟部隊に配属されることになった。
初めての狩猟部隊で、ぼくはクロンと同じ部隊に配属された。
クロンのように狩猟部隊へ憧れはなかったが、初めて外に出る時は、それでも高揚感が止まらなかった。
反対にクロンは、もっと命をかけて狩りをするものと思っていたのが、それほどではなかったことで、あまり楽しくなさそうな様子だった。
初めての外の世界は、想像とは全く違っていた。
本当に暗闇で、この暗闇がどこまで続いているのかもわからない。
食料が収穫できる場所はある程度決まっているらしく、ゾロソロと部隊はその場所を目指して行軍した。
ぼくは食料係の時のように、クロンの後をついていく。
なんだか懐かしさを感じる。
王国とは違い、自分の周りに遮るものがないので、クロンの後から外れないようにとにかく気を付けた。
しばらくすると、急に世界が明るくなった。
そのとき、初めて世界の様子を見ることができた。
ぼくらより、はるかに大きな石や植物がそこかしこに並んでいる。
その間に作られた道を、ぼくらは行軍していた。
やはり世界は広い。
周囲のどこにも、果ては見当たらない。
ミリーが言うには、世界はもっと広かったらしいが、これよりも広いなんて、全く想像がつかない。
そのとき、ふいに頭上に何かの気配を感じた。
一瞬のことでよく分からなかったが、ミリーの言っていた巨大な怪物のことを思いだし、恐ろしくなった。
今この瞬間に、この前のような大雨が来たら、ぼくは助かるだろうか。
そんなことを考えているうちに、目的の場所まで辿り着いた。
それは初めて見る物体だった。
巨大な茶色の塊。甘い香りのするその物体を、各部隊がそれぞれ抱えて持ち帰ることになった。
クロンは何度も見ているようで、黙々と作業に従事している。
これまで食料係として分配していた食料が、元はこのような物体だったなんて、想像もつかなかった。
気付けばすでにまた暗闇になった世界を、ぼくらは王国に向けて帰路に着いた。
持ち帰った食料をミリーたちに受け渡し、ぼくらはまた先ほどの食料を調達しに戻る。
こうしてぼくたちは、1日かけて収穫できる限りの食料を持ち帰る。
日々この仕事を繰り返しているだけでは、確かにクロンのように、純粋な狩りを求めているものには物足りないかもしれない。
でもぼくは、あの大雨のようなことが2度と起きない方がいいと思っていた。
そんなある日、唐突にそれは訪れた。
いつものように行軍を進めていると、感じたことのない緊張感が走った。
これまでのような動かない獲物ではない、それはまだ動いている、狩りをしなければいけない食料だった。
ぼくらの何倍はあろうかという生き物に、先に辿り着いた部隊が攻撃を仕掛けている。
ぼくは、初めて見るこの生き物にただただ驚いていたが、部隊は行軍を止めることはない。
次第にその生き物に近づくと、みんな思い思いに攻撃を始めた。
クロンも果敢に挑んでいく。
ようやく狩りの機会が巡ってきて、嬉々として立ち向かっているよう見える。
最初は驚いていたぼくも、次第に体中の血が滾るのを感じ、生き物の足を目掛けて、思い切り飛びかかった。
そこから先は、無我夢中でハッキリ覚えていないが、やがて生き物は動きを止めて、大人しくなった。
完全に動きが止まったことを確認すると、各部隊が生き物を解体し始め、王国へと持ち帰り始めた。
そのときになるまで気が付かなかったが、負傷したものがいくらか出たようだった。
クロンはなんともなかったようで、意気揚々と食料を運んでいる。
幸い死ぬものは出なかったが、自分も負傷したかもしれないと考えると、今更ながら恐ろしくなった。
負傷したものはミリーのように食料係となるのだろうか。
そんなことを考えながら、ぼくは解体された部位を運び続けた。
それきらは、生き物を狩りすることはなかった。
巨大な茶色の塊や、赤い塊、黒い塊など、様々な物体を発見しては王国へ運んでいた。
そうして、しばらくは平和な日々が続いていた。
しかし、いつものように食料の収穫に向かおうとしていたとき、王国の外が異様な明るい光に包まれた。
ぼくは、すぐにミリーの言っていた、大雨の日のことを思い出した。
急いでミリーのところへ向かおうと思ったが、すでに狩猟部隊が行軍を開始しており、ぼくは外に出るしかなかった。
そのとき見た光景は、本当に恐ろしく、この世の地獄だった。
先に外に出た部隊が、侵略者たちに襲われていたのだ。
よくはわからないが、おそらく命を落としたものもいるのではないか。
これがミリーの言っていた明るさだろうか。
王国の外の世界が、一面光輝いている。
その発行した世界のなかで、仲間たちが次々に侵略者に殺されていく。
ぼくらの部隊も、外に出たとたん三々五々に散開してしまった。
このままではいけない。
これから出てくる部隊にこの事を伝えなければ。
ぼくは踵を返し王国へ戻ろうとした。
しかし、王国の入り口付近にまで、すでに侵略者たちが迫っている。
そこでは、後続の部隊が懸命に侵略者を食い止めようと闘っていた。
そのなかにクロンの姿もあった。
とにかく女王を守らなくてはいけない。
この混乱した状況でも、それだけは絶対だった。
女王を守るために闘うもの、食料を移動させるもの、子どもたちを移動させるもの、みんな懸命に侵略者から王国を守ろうとしている。
ぼくもクロンの側で、とにかく侵略者を王国に入れないように懸命に闘っていたが、気付いたらクロンの姿はなかった。
侵略者たちの勢いはすさまじく、やがて王国の入り口が壊された。
ぼくらはもう、なす術がなかった。
次々に侵略者が王国へ侵入し、女王は王国を明け渡した。
女王は王国の外に放り出され、ぼくたちは新しい女王を迎えることになった。
そのあと、女王の姿を見かけることはなかった。
それはあっという間の出来事だった。
ぼくは新しい女王の命令で、死体を集めることになった。
その中にはミリーがいた。
死体を集めて、初めてぼくは仲間たちも食料になることを知った。
王国の外はまだ眩かった。
多くの死体に紛れて、クロンを発見した。
まだ生きているかもしれない。
そう願ってぼくはクロンに近付いていく。
その最中、ぼくは空の彼方にハッキリと見た。
あれがミリーの言っていた巨大な怪物だ。
そして巨大な怪物が、侵略者をぼくらの世界へ投下している。
この世界は理不尽なことばかりだ。
ぼくらが何をしたというのだろう。
あの巨大な怪物は一体何が目的なのだろう。
ぼくは悔しくて仕方がなかった。
せめて、せめてクロンに生きていてくれと祈りながら、ぼくは触覚でクロンの生死を確かめた。
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夏休みの自由研究
昆虫の観察日記 4年1組⚪⚪⚪⚪
「アリの生体の観察を始めました」
1.アリの巣作りを観察しました
公園で見つけたアリの巣をスコップで掘り返し、大きな水槽に移して観察を始めました。
水槽の周りを黒い紙で囲うと、アリは巣を作り始めました。
時折ふたを開けて、角砂糖やチョコレート、ミニトマトなどを置いておくと、巣からアリが出てきて巣の中へ運んでいました。
生き物を餌にする様子も観察したかったので、弱らせたコオロギを入れてみたら、アリたちは襲いかかっていきました。
2.アリの巣に水を入れてみました。
今年の夏も水害が多かったです。
アリの巣に水を流し込むと、アリはどのように対応するのか、観察しました。
ふたを開けて、見やすいように黒い紙を全部はがして観察しました。
ジョーロで上から水を注ぎ込みました。
しばらくすると、巣穴のなかでは女王アリや幼虫のアリを移動し始めました。あと、エサも別の場所に移動させていました。
水を入れすぎて、何匹かアリが死んでしまいましたが、その死体もアリが運んでいきました。
3.他のアリを入れてみました。
他の巣穴から掘り返したアリを、同じ水槽に入れたらどうなるか観察しました。
後から入れたアリが巣のなかに入って今いるアリを追い出しました。
女王アリも外に出されていたので、捕まえて公園に放しました。
しばらくすると、水槽には新しい巣穴ができていました。
アリは人間と違って夏休みもなくてかわいそうだと思いました。
でも宿題もないのでうらやましいと思いました。
これでアリの観察日記を終わります。
水槽のアリは、公園の花壇に帰してあげました。
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宇宙歴⚪⚪⚪年
とある惑星の観察日記
この銀河系付近の惑星の様子を観察を始めることにする。
一際青い星に、数多くの生態系を確認。
生態系を観察するために、著しく惑星の大気の温度を上昇させることにする。
気温の上昇に、この生物たちがどこまで適応できるのか観察することにする。
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