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「起承転結の”承”で終わるような人生が理想よね」
新学期が始まって間もない教室で、後ろの席の水守はそう言った。
僕は手元の文庫本に栞を挟んで振り返る。
「なんだそりゃ」
「だって”転”って絶対大変でしょ。何かしら予想外の事態が起こるんだから。そういうのって思ったよりもエネルギーを使うし、できるだけ避けていきたい」
「無気力だな」
「効率のいい生き方を選択してるの」
省エネよ、と水守は長い黒髪を微かに揺らしながら言った。同じくらい黒い瞳が僕に向けられる。
「でも真島くんもそういうタイプでしょ」
「失礼な。僕ほどやる気に満ちた生徒もそういないぞ」
「帰宅部。テスト平均点。授業は居眠りもしなければ挙手もしない。休憩中は一人で本を読んで過ごす」
水守はつらつらと僕の生活スタイルを並べていく。
まだクラスを替えて数えるほどしか経っていないのによく見てるものだ。
「その生き方は私の価値観と近いものを感じたんだけど」
「まあ、確かに。水守の言うことはよくわかるよ。人一人に限られたエネルギーの使い道は考えるべきだと思ってる」
「うん、やっぱり真島くんは思った通りの人ね」
彼女は微笑んで「そんな真島くんを見込んで、お願いがあるの」と言った。
「お願い?」
「うん。私と協力関係を結んでくれないかな」
「協力関係? どういうことだ」
僕が訊き返すと、彼女は前髪を耳にかけながら言った。
「私と一緒に図書委員になってほしいの」
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