鶏モモ肉はネギと一緒に食べられたい

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鶏モモ肉はネギと一緒に食べられたい

 日本。  某所。  焼き鳥専門店の、カウンター裏。 (またネギさんだけ先に、食べられてっちゃった……)  平たく四角いステンレスパットの上で、鶏モモ肉は考えていた。  昨晩のこと。  ネギマとして出された鶏モモ肉だが、串から外され、先に食べられたのはネギだけだった。  ビールと共に口の中へ流し込まれるネギには、鶏モモ肉の皮の脂がこれでもかとしみこみ、さらに店主の秘伝のたれか、もしくはこだわりの沖縄産藻塩が、絶妙な塩梅でついている。  そんなネギが美味しいのは、鶏モモ肉だってわかっていた。  ネギは朝早くに、この店へ何時もやってくる。ネギ専門の卸商人が持ってきてくれる、ブランドのネギだ。  ネギを鶏モモ肉は上下で挟み込み、優しく脂を纏わせる。ネギはそれをいくらでも吸い込んで、しっとりと濡れながらも、決して芯の甘さを失わない。 (そんなネギさんと、一緒に食べてもらえたら……)  鶏モモ肉は、いつもそう考えていた。  しかし、最近は、どうも違う。1人飲みにくる客が増えたことで、ネギマとなる自分とネギの出番が増えた。おかげで前より一緒にいられるが、何故か、ほとんどが串から綺麗に外したうえで、ネギだけを先に食べていく。 「やっぱサキベジだよな、ネギうめぇし」 「そうそう、野菜最初に食べると、体にいいんだよね?」  客の話を聞くが、鶏モモ肉には分からない。 (どうしたら……そうだ!)  鶏モモ肉は、隣にいる鶏ムネ肉を見た。 (な、なんだよ、鶏モモ) (うん! あ、あのさ、鶏ムネ)  もじもじと筋線維を震わせながら、鶏モモ肉は尋ねた。 (俺達ってさ、いろいろ違うだろ?) (まぁな。俺は筋肉質、脂身も少なくてタンパクだ。でもお前は脂肪もたっぷりでプリップリ。……ネギとは、お似合いだな) (でもそんな俺たちが一緒になって、さらにネギさんと合わされば、凄く美味しいんじゃないかなって)  鶏ムネ肉は、ドキン、とムネに痛みが走るのを感じていた。  いつも鶏モモ肉には、負けたような気持ちになっていた。隣同士だというのに、正反対な立ち位置のせいで、串まで別物だ。ここの店主のこだわりで、鶏モモ肉には持ち手が広い少し高めの竹串、一方で鶏ムネ肉には何の変哲もない丸串が使われている。  突き刺さって並んだあと、先にはけるのはいつも、鶏モモ肉だった。  ネギもそうだ。  ネギと鶏モモ肉の相性は、悔しいが鶏ムネ肉も認めざるを得ない。  数がその差を証明している。ネギマ(モモ)の方が、ネギマ(ムネ)より、ずっと多く作られるにもかかわらず、売り切れるのはネギマ(モモ)の方がずっと早かった。 (んで、どうするんだよ……) (ネギさんと一緒に、お前と、つみれになりたい!) (つみれ!? おいおい、それなら、その、確かにネギと一緒に食べてもらえるけどさ……)  ちらりと、鶏ムネ肉はカウンターの奥の食材たちを見つめた。  つみれになるには、外せない相手がいる。 (ショウガも、一緒になるじゃんか……)  鶏ムネ肉にもみこまれることの多いショウガが、そこにいた。涼しい空気を苦手とする彼は、他の野菜たちとは異なり、わりと外にいる。薄皮を剥いた先にあるピリッとした刺激に身を引き締められる経験は、ここにいる肉ならどの部位だって知っていた。 (え、いいじゃん。ショウガなら、どっちだって許してくれるよ) (そう、かなぁ……)  今度は、鶏モモ肉がもじもじとする番だった。筋線維が震えたおかげで、アミノ酸が増えていくのが分かる。 (……店主、分かってくれるかな) (うん。お、俺も。その、ネギさんと一緒に食べてもらいたいからさ……頑張るよ) (……はぁ、分かったよ。隣の部位のよしみだもんな)  2部位は心を決めるのだった。
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