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「お腹は空いてるかな?」
そんな私を見てか、その人が訊いてきた。
……そんなもの、この非常時に空くはずなんか。
しかしそう思った瞬間、グウ、と大きく返事をする恥じらいのないお腹になった人の私。
「あはは、素直だね。僕の名前はルカ。どうぞ、入って」
彼は軽い調子で笑いながら、俯いてしまった私をその家の中へと招き入れてくれた。
外から見るよりも、意外と天井が高い。
玄関と廊下は木そのものの色と紺色を基調にして、落ち着いた感じでまとめられていた。
そして促された先の、丸いテーブルの上に湯気の立ったお鍋が置いてある。
どうやら匂いの元はこれだったらしい。
彼、ルカさんは私のような突然の訪問者に慣れているようだった。
私に向けて椅子を引いてくれ、ここに座って、と促す。
「きみ、タイミングが良かったね。良いウサギが手に入ったんだよ」
ルカさんはそう言い、丸い木の器を私に手渡してくれた。 お肉らしきものが入ってとろりとした、茶色のシチューのようなもの。
それを見た私はつい喉を鳴らしてしまう。
やはりこちらの世界でもお腹は空くのだ。
それに、人間になったら味覚もそれに似るのだろうか、元は肉食で猫舌の私なのだけど、口にしてみると野菜も熱いスープも全く気にならない。
「お、美味しいです!」
ふふ、という声が聞こえてきた。
彼が頬杖をついて薄っすら笑みを浮かべ、私を眺めていた。
その表情のお陰かルカさんという人は、始終柔らかな雰囲気を身に纏っている。
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