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出会い
生きる為に罪を重ねて来た俺はある日、人気のない路地裏で倒れている女を見つけた。
「オイ、道端で寝てんな。邪魔だぞ」
「うぅ…ア、アンタは…?そ…それよりお願い…何か食い物を…」
「俺はリッキーってんだ。オメェだいぶ弱ってんな。ちっと待ってろ。」
俺は何故かその女を放っては置けなかった。十数年間も盗みを続けてきた俺が人助けだなんておかしな話だが、どことなく俺と同じような雰囲気がしていたんだ。
俺は気がつけば歩き出していて、近くの店まで来ていた。そこで水とパンを慣れた手つきで盗み出し、女の元へ戻った。女は今にも餓死しそうな顔をして壁にもたれていた。
「ほら、食い物と水を持ってきてやったぞ」
女の胸のあたりに軽く放り投げるとそれを抱え込む様に受け取り、こちらを見上げた。
「ほ、本当に…くれるのか…?」
「何の為に戻ってきたと思ってんだ?良いからさっさと食え」
「あ、ありがとう…本当に助かった…」
今まで希望も捨てた様な顔をしていたが、安堵したのか袋を開けると勢いよくパンを頬張り始めた。
「どのくらい食ってねぇんだ?」
「1週間ちょっと…」
それを聞いて俺は驚いた。何故そんな長い間何も食べなかったのか。盗みをして生きてきた俺には理解ができなかった。
「オメェ名前は?どうして何も食わねぇんだ?」
水とパンを交互に頬張りながら女は答えた。
「アタシはアレッサ。夫のDVが酷くて、耐えられなくなって…隙を見て逃げてきたんだけど、何も持たずに出てきちゃったから…」
「よく有りがちな話だな。けど金くらいは持って出ろよ。何かあった時、困るじゃねーか」
「そんな余裕が無かったの…ホトンド監禁状態だったから。隙を見て抜け出せたのが奇跡なくらいにね」
「そりゃ気の毒だな、なら何で親や知人を頼らなかったんだ?金もねぇなら1人じゃ生きられねぇだろ?」
「彼との結婚で地元を離れてこの町に来たから、親も友人も頼れる人が誰も居ないんだよ…。最初はどうしても空腹に耐えられなくて食べ物を盗んだりもしたんだ…。」
やはりだ。俺の勘に狂いはなかった。
似たような雰囲気は"盗み"にあったらしい。
「でも盗むのは犯罪だし、罪の意識に耐えられなくなって…」
「で、限界を迎えてここで倒れていたのか」
「えぇ、アナタが来なかったら恐らく餓死してたわ」
まぁ、そうだろうな。だが何より、俺が人を助けた事に一番驚きを隠せないでいた。
この出会いをキッカケに、俺の人生は思いもよらぬ方向へと動き出す事になる。
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