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感情
アレッサはパンを食べ終えると、また俺に助けを求めてきた。
「ねぇ、リッキー。アナタの家に居させてくれない?」
「は?」
「もちろん身の回りの事は全部アタシがするし、掃除も洗濯も料理もするから!」
「急に言われても困るんだが?」
「そうだよね…今日知り合ったばかりの人間と一緒に住むなんて、誰でも困るよね。でも行く宛も無くて…」
俺は戸惑っていた。俺は窃盗団の一員だ。この前襲撃した銀行での金は、4人で山分けしても家1つ建てられるくらいはあって生活には困らない。家も持っているから泊めることはできるが…。"仕事"で使う隠れ家はサツに悟られないよう、普段は近づかない決まりになってるからだ。思い返せば、リーダーのオスカーも無一文だった俺を迎え入れ、自分の家に匿ってくれていた時期があった。銀行襲撃を繰り返し金を手に入れて、自分の家を用意できるまでの期間世話してくれたのはオスカーだ。その時、俺の中のわずかな良心が決断させた。
「わかった、お前を匿ってやる。」
「本当に!?」
「ただし、条件もある」
「何?どんな条件でも良い!早く言って?」
「ずっとは匿ってやるつもりは無い。いつかは金を貯めて自立しろ。だから働いて稼げ。それと、自分で言った家事全般は絶対だ。それなら匿ってやる」
「わかった、助けて貰ったんだからそれくらいは重々承知さ!本当にありがとう、リッキー。」
その言葉に俺は何故か心が締め付けられた。
この気持ちは一体なんだ?
"初めて人に感謝され、初めて自分をグループ以外の人間に認識してもらえた事がそんなにも嬉しかったのか?"
俺は自問自答をした後、アレッサと自宅に向かった。だが、絶対に俺が窃盗団の一員だという事は、悟られてはならない。
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