長男の恋と次男の思惑~中辻家の場合~

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長男の恋と次男の思惑~中辻家の場合~

 中辻家は、父、長男、次男、長女の四人家族である。  父、正孝(まさたか)は三十九歳。長男、秀孝(ひでたか)は十九歳。次男、幸孝(ゆきたか)は十八歳。長女、孝子(たかこ)は十歳である。  母は五年前に他界して、以来、四人で力を合わせて生活してきた。  最近まで、さまざまな問題はあれど、家族仲良くやってきた。  それが崩れたのは、バカ兄貴の遅い初恋のせいである。    今朝も秀孝は父親の布団に潜り込もうとして、父親に鉄拳を食らっている。 「いってーーー。なんで殴んの? 父ちゃんの朝勃ちを処理してあげようという息子の親切心、なんで分かってくれないの?」 「何が親切心だ、このバカ! さっさとそこを退け。トイレに行かせてくれ」  父の正孝は頭を抱えて怒鳴っている。  俺は両手で孝子の耳を塞ぎながら、バカ兄貴に叫んだ。 「朝から変態なセリフ吐いてんじゃねー! バカ兄貴、孝子の教育に悪いだろーが!」    この家は狭い。それぞれの個室なんかない。十畳の和室に何枚も布団を敷いて四人で雑魚寝しているのだ。  父は男前だ。母は姉さん女房で、父の容姿に惚れて、まだ学生の父に乗っかり兄貴を孕んで、出来ちゃった結婚をした。父は大学を辞めて働きだした。結局、高卒の父なので、お給料はそれなりだ。母と二人で働いて人並だった家計は、母が亡くなってからは、貯金をする余裕もなく、兄の秀孝も俺も、進学を諦めて高卒で働いている。勉強好きな孝子だけは、大学に行かせてやりたい。それが父と俺達の共通の目標だった。 「兄貴、さっさと準備しないと、遅刻するんじゃねぇ?」  秀孝は飲食店勤務。料理が得意なので、そのうち調理師免許を取りたいと言っていたが、厨房よりももっぱらフロア要員だ。秀孝は母親似だ。母は美人だった。父と並ぶと美男美女で、おかげで秀孝も俺も孝子も、容姿は整っている。  父に似て高身長で体格の良い俺と、母に似て小柄で女顔な秀孝は、一見すると兄弟には見られない。秀孝のほうが弟だと思われることも日常茶飯事だった。  秀孝は、容姿だけは、儚げな美少年なのだ。 「幸孝、なんとかならないか?」    父に耳打ちされて、俺は一計を案じた。 「今度の土日、孝子と二人で祖父(じい)ちゃん家に一泊して来れる? 俺が兄貴と話をするよ」 「悪いけど、頼むな」  父に肩をたたかれ、「任せてよ」と俺は笑った。  土曜日である。秀孝は仕事だ。俺の仕事は学校事務なのでカレンダー通りだが、兄貴の休みはシフト制。カレンダーには明日と明後日に赤い丸印。珍しく連休が取れたらしい。月曜日の朝に友人との待ち合わせの予定があるらしいが、日曜日は空欄になっている。  好都合だ。俺は布団を干したり、シーツを洗濯したりしながら、秀孝の帰りを待った。 「ただいまー。唐揚げ貰ってきたぞ」 「おかえり。兄貴、孝子と親父は祖父ちゃん家に泊まりだってさ」 「はぁ? 聞いてねーよ。マジか?」 「マジ。飯食べようぜ」  秀孝は露骨にがっかりしている。なんだって実の父親に恋愛感情なんてものを持ったんだろう。家には孝子もいるし、どうにもなりようがないだろうに。  秀孝は、一見すると美少年だ。モテる。先輩や、通りすがりのおっさんに襲われそうになったこともある。だからか、男嫌いだ。友人も女の子ばっかりだったりする。だが、彼女たちより可愛らしい兄貴は恋愛対象外らしく、今まで誰かと付き合ったりしたこともない。そんな秀孝が、ある日突然、親父かっこいいっと目をハートにして言い出した時には、脳みそが暑さでやられたんだと、本気で心配した。   「なんだよ、ジロジロ見んなよ」  食卓で、唐揚げとご飯と味噌汁を食べながら、ついつい視線が秀孝の口元やら、細い首、シャツから覗く鎖骨などに引き寄せられる。男を抱いたことはないが、今まで抱いた女よりも実の兄の方が美しい。何の問題もなく抱けそうだと思った。 「なぁ、俺って親父似だと思うんだよな」 「あぁ!! 悪かったな。どうせ俺は母親似だよ」  拗ねたように唇を尖らせた秀孝は、口は悪いが、可愛いと言えなくもない。 「親父じゃなくて、俺にしとけば?」 「はぁぁあ? 何言ってんの? 年下なんか絶対イヤだ!!」 「11か月しか違わねぇじゃん」 「それでもだよ!!」 「俺の方が、親父より若いし、男前だと思わねぇ? 親父が兄貴を抱くことなんて、天地がひっくり返っても無いだろうし」 「ばっ……」  真っ赤になって唐揚げを落とした秀孝は、口をパクパクさせている。童貞で、ついでに、処女だもんな。猪突猛進に親父に向かって行ってるけど、本当は初心(うぶ)なんだ。 「お前、何考えてんの?」 「俺もさ、ここのところ彼女もいないし、兄貴はそこらの女より可愛いから、兄貴と付き合っちゃったら楽だと気付いたんだよな」 「近場で済まそうとするな! それに、楽ってどういうことだよ?」 「だから、溜まるもんは溜まるじゃん。兄貴も男だから分かるだろ? 兄貴の性欲も、俺の性欲も、一緒に解消できて一石二鳥だと思わねぇ? 少なくとも、見込みもない親父に片想いとかするよりはマシだと思うんだよな」 「……話しにならない。さっさと片付けて風呂入って寝ろ。そんで、そんなバカな戯言、二度と言うな」  秀孝は食べ終えた食器を掴んで台所へ消えた。俺も、残りの飯を掻き込んで、後を追った。  もう、文句を言うのも疲れたのか、黙って食器を洗っている秀孝の耳は、後ろから見ても分かるくらい赤くなっている。 「先に風呂使うから」  俺はそう言って、秀孝に食器を預けると、台所の横の風呂へと入った。秀孝が今、この家から逃げることは考えにくい。  のんびり湯に浸かりながら、秀孝は今、何を考えているだろうと想像してみるが、俺には見当がつかなかった。  風呂からあがると、秀孝は和室に布団を敷いていた。二組の布団は、部屋の端と端に敷いてある。俺は思わず笑ってしまった。 「俺も風呂入るけど、布団、動かすなよ!」  怒りからか緊張からか、いつもより頬を紅潮させた秀孝がそう言って風呂場へ去った。   「はー、かーわい」  俺は思わず口に出していた。今までそんなに意識したことはなかったが、秀孝は可愛い。俺は自分でも気づかずに、舌なめずりをしていた。  箪笥の自分の引き出しから、ゴムとジェルを取り出して、枕の下に隠した。体格差は歴然としている。抵抗されても抑え込むのに苦労はしないだろう。タオルとミネラルウォーターも布団の横に置いておいた。 「……おい。何、これ?」  音もたてずに背後に立っていた秀孝が、不審そうに訊ねた。 「見ての通りだよ」  バスタオルでガシガシと頭を拭きながら、水色のパジャマ姿で、湯上りのホカホカした肌の秀孝はとても抱き心地が良さそうだった。 「兄貴、一緒に寝ようぜ」 「バカ言うな」 「俺、上手いよ? 痛い思いさせねぇから」  しっしと、犬を追い払うような仕草をする兄の手を掴んで、腕の中に抱き込んでやった。 「兄貴、キスしたことある?」  腕の中の秀孝から石鹸の匂いがして、逃れようと腕を突っ張ろうとするのを、無理矢理抱き締めて、唇にキスをした。  目を見開いて、頭を捩って逃れようとするのを、そうはさせまいと唇で追った。   「……っんんん」  息をするのも忘れている秀孝は、唇が離れた途端、苦しそうな声を漏らした。薄く開いた唇の中に、俺はもう一度口付けて、舌をねじ込んだ。 「んっうぅ、やぁ、やめっ……」  くぐもった抵抗の声を飲み込むように、濃厚なキスを仕掛ける。舌で、歯列をなぞり、上あごを擽り、秀孝の舌を捕えて嬲った。くたりと、秀孝の体から力が抜けるのが分かった。俺は秀孝の口の端から零れた唾液を舐めて、ゆっくりと布団の上に押し倒した。 「なあ、俺の顔、好きだろ?」 「……」  返事はなかったが、秀孝はもう抵抗しなかった。  俺は、初めての秀孝が苦しくないように、薄い掛け布団を腰の下にかませて、パジャマのズボンとボクサーパンツを脱がした。  芯を持ち掛けている秀孝の雄は、俺の可愛げのないそれよりも小ぶりで、色も薄くて、抵抗なく咥えることが出来た。  声を殺そうとタオルを咥えた秀孝を、気持ちよくさせることだけに集中して、吐精へと導いた。そして、力の抜けた秀孝の後孔に、そっとジェルを纏わせた指を這わした。  指を咥えさせ、馴染むのを待って、ゆるゆると動かした。 「兄貴、苦しくないよな?」  わずかに首を振るのを確認して、指を増やして、前立腺を掠めるように、時間をかけて拡げていった。一度萎えた秀孝の雄も、前立腺への刺激から、また固く、先端から蜜を零し始めていた。  ぬちゃぬちゃと、濡れた音が、静かな部屋へ響いている。俺の額からも、汗が滴り落ちた。 「挿れるから……」  十分にたち上がった俺のモノに素早くゴムをかぶせて、ゆっくりと秀孝の中へと沈めていく。タオルを咥えていても漏れ聞こえる秀孝のくぐもった声が、俺の興奮を煽った。 「っっ、きつっ……」  秀孝の中は熱く、そして、痛みを感じるほどにきつく圧迫された。挿入の衝撃で萎えた彼の中心を、そっと撫でた。 「兄貴、ゆっくりするから、こっちに意識を集中してみて」  動きを止めて、彼の中心がまた芯を持つまで、我慢強く愛撫して、少し中が緩んできたころ、またゆっくりと奥へと進んだ。 「なぁ、兄貴、好きだよ。兄貴はかわいい。俺と付き合って」  こんな時に口説くのは反則かもしれないが、痛みから秀孝の気を紛らわせたかったから、俺は、真摯に口説いた。 「っっばっ、ばかっ……」  秀孝の涙交じりの罵声は、俺にはただただ可愛いとしか感じられなくて、口の端がむずむずした。 「兄貴かわいい。好きだよ。ちょっと苦しいかもだけど、我慢してな」  俺も、限界が近かったから、秀孝を抱き締めながら、素早い押送を繰り返した。ゴム越しでも、秀孝の中での射精は、今までの人生で一番気持ちがいいと思った。 「……っ、バカ、バカだっ」  涙をこぼして、秀孝が俺に縋りついてくる。 「お前は弟だから、好きにならないようにしてたのに……」  俺は秀孝の頭を撫でて、そっと目尻に口付けた。 「うん、ごめんな。兄貴。好きになってごめん」  秀孝が泣き止むまで、俺はずっと顔中にキスして、抱き締めた。 「ただいま」 「ただいまー。兄ちゃんたち、喧嘩してない?」  日曜の夕方、親父と孝子が帰宅した。  朝からずっと、初めての行為に熱を出した兄貴の看病をしていた俺は、孝子にシーッと合図する。  「兄貴、熱が出て寝てるから、静かにな」 「熱? 大丈夫なのか?」  親父の心配そうな声に、大丈夫だと頷いた。 「ちょっと疲れが出ただけだから大丈夫だって。それから、兄貴にちゃんと話したからな」 「ああ? ありがとう」  俺達の関係は、親父にも言えない。だけど、俺は、秀孝と兄弟に生まれたことを心の底から感謝していたのだ。 「こっちのセリフ……」 「ん? なんか言ったか?」 「何でもない」  俺は首を横に振って、孝子の宿題を見てやったのである。
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