#1 また再び巡り逢うまで

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#1 また再び巡り逢うまで

それは高校3年が始まった頃… 大切な時期だった。 夕暮れ時、まるみや商店の中を見回っていた。 ボロボロになってしまった家を撫でる。 大切な思い出ばかりのこの家には、 たった1人、もち子さんだけが住んでいた。 「ゆかりちゃん、そんな悲しい顔しないでおくれ」 「…だって」 もち子さんは、まるみ屋商店を閉店する… そう言った。 …大好きなお店が無くなるのは嫌だ。 そんな事を思っていたが仕方ない事なんだろうか… チリンッ…と音がしてお客様が来たのを知らせる扉の鈴の根を聞いて、 もち子さんが出迎えていた。 「…続けたい」 それは、小さな事だったかもしれない。 お金が無いわけじゃない、バイトを雇えば良かった…ただ…少しでも私にも何かできないか。 ほんの些細な事だった。 勉強が全てだという親に対して、 絶対怒られるのは覚悟していたけれど。 もち子さんがお父様に交渉してくれたそうで、 志騎高に入ってから初めて我儘が通った瞬間だった。 だからこそ此処だけは、 私の心の在りどころになる… そんな気がしていた。 … いつもの朝のトレーニング、 清々しい朝の日差し。 まだ風も心地良くて、 ちょっと冷たい空気が頬を撫でた。 新しいクラス、3年生ともなればみんな顔見知った仲だというのに、… 結局誰ともまともに話す事はなく時は過ぎた。 春も終わるというのに… 友達が1人もできないなんて、 自分から避けて来たものが今さら欲しくなる。 それは、いけない事なのに… 失敗したらまた、 同じことを繰り返すだけなのに。 そんなことを考えながら階段を上がる。 成宮神社で祈ってから街の広い通りを走り、 ランニングをして学校に向かう… これは私のルーティンのようなもの。 … 成宮神社に出会ったのは、 高校1年生の梅雨時に勉強に疲れ何か息抜きを探して図書館に行った後、散歩をしていた時のこと…気まぐれに子猫を追いかけた。 ふと、 成宮神社で子猫が急に止まったのがきっかけだった。 こんなところまで来たのは初めて… あまり街の中を遊んだ事はない… そういった友達が少なかったせいでもある。 自宅からそこそこ距離もある神社だから、 今まで気づかなかったのかもしれない。 階段をふと上がっていくと、ドンッと人にぶつかってしまった。 「ごめんッ!」 「ごめんなさい」 同時に声が重なって、ふと見上げる。 あれ?…えっと…彼は確か… 入学初日から坊主にして来て騒がれていた人…? 不覚にもちょっと笑っちゃったのよね。 そんな事を思いながら軽く会釈をすると、 何かを言いたそうにしていたが 彼も会釈を返してくれた。 私は神社を一通りまわった… ふと、お賽銭箱を見つける。 …何かお願い事をしてみよう。 …何を願おうか… …なんだか、視線を感じる。 振り向くと彼はまだこちらを見ていた。 私…何かおかしな事をしてしまったのかしら…? 私がうろうろと神社の中を見て回ってる間、彼はずっとそこに居たのだろうか。 ………不思議な人……… 私が彼をじっと見つめると、 まだ短めな髪を触りながら目を逸らされた。 そうよね、…もし彼が私のことを知っているなら恥ずかしかったわよね。 …… (彼の髪が早く伸びますように) そんな事を願った。 こんなお願いをしたのは初めてだわ。 笑いそうになるのを堪えて、 神社を後にした… 彼は私の姿が見えなくなるまで私とぶつかった位置から動かずただ立ち尽くしていた… … 今日もまた、神社からのスタート。 高校3年生か… まるみ屋商店との両立は何だか怖い。 部活もラストの総体まで気を抜きたくない… できるのだろうか… でも、少しだけ… 今まで頑張って来たご褒美みたいなものを、 心のどこかで求めていたのかもしれない。 今日のお願い事は、何にしようかしら。 この神社に出会って後から知った、 あの時の坊主の少年は“成宮拓海“という名前で、成宮神社の息子だったみたい。 なんとなくクラスで聞こえた情報だから、 詳しいことは知らない。 でも、あれから神社で姿を見たことが無かった。 学校での彼は時折り 私の落としたものを拾ってくれたり、 掲示物の張り紙が届かないと手伝ってくれたり、 掃除をしていると当番じゃないけれど物をちょっとずらしてくれたり。 特に長い会話が続くわけじゃないけれど、 優しくしてくれていた。 そういう男子って何人か高校1年生の時からいたけれど…成宮くんだけは話しかけて来た後に何かを言いたそうにしたり不思議な行動をするものだから、 失礼かもしれないけれど可愛くて つい笑ってしまいそうになるのを堪えていた。 偶然私が困っていたから、 助けてくれただけなんだろうけれど、 いつか…普通に話せればいいな。 お友達になれたら、楽しそうな人だな。 (成宮くんとお友達になれますように。) … そんな有りもしない願い事をして 神社を降りると、 今日の朝練に付き合いたいと言った癖に遅刻してきて眠たそうにしていた春輝が何か携帯で写真を撮っていた。 「朝の写真とか綺麗だからいい感じじゃん〜俺っぽくねぇけど」 なんて…何かしている… 「…何をしているの?」 気になってに話しかけてみると「うわっ」なんて驚かれた… 驚くなんて珍しいこともあるのね、 と携帯の画面を覗き込む。 文字がたくさん…いろんな写真… タロ?…太郎…片桐くんかしら? 「Twitterやってんの」 「ツイッター?」 不思議と興味が湧いた…春輝に話を聞けば、 これでいろんな人と話ができるらしい。 もしかしたら、まるみ屋商店にみんなが来てくれたりしないかな。 1人は心細かったのかもしれない、 学校のみんなは何処か優しそうだから… 来てくれたらいいなぁ。 話せなくてもいいから、 会いに来て欲しい。 そんなエゴだけが珍しく私を突き動かした。 「ワタクシにも出来ますか?」 「やってみたら?」 「教えてください!」 「えっ、ちょっと…」 好奇心に押され、 自分の携帯を春輝に押し付ける。 やり方がよくわからないが、機械音痴では無いのできっとやり始めたら覚える筈。 携帯に通知が来るのが嬉しくて、 いろいろな人からのフォローが嬉しかった。 …不思議な世界ね… 学年関係なく話しかけてくれる。 これは…春輝のお友達かしら。 この人見たことある… あ…拓海… 成宮くん…? …本当は何度か話したことがあったのに、 はじめての挨拶は嘘をついてみた。 「あら、成宮くんではありませんか。 話したことは有りませんでしたが神社によく足を運ばせていただいておりますの、 絵馬もこの間、書かせていただきましたわ…」 不快に思うだろうか… どんな返事が来るのだろうか… 悪戯をする子供のように、 ドキドキしていた。 「京極よく来んなぁと思ってたわ。ありがとな。つか朝学校いくの早くね?何時から居んの?」 あら? 嘘つき呼ばわりされる事は無かった… それよりも、気になることがある… よく…いっていることが気づかれている? ほぼ毎日のように神社に行って祈っていたのを… 見られていたのかしら。 不意に、ずっと私の様子を見ていた 1年坊主の成宮くんを思い出す。 …何処から見てたのかしら… なんだか反撃をされた気分で悶々とした。 次に神社に行ったら少し辺りを確認してみようかしら。 まるで隠れんぼをしているみたいで 勝手に遊んでるような気持ちになる。 腹が立つような気もするけど、 凄い楽しい。 Twitterって凄いわね… …まるみ屋商店の情報も流していこう。 ほんの些細なことだったけれど、 知らない生徒も訪れ… 大人や子供ばかり来ていたまるみ屋商店には… いつのまにか学生服を着た生徒まで遊びに来るようになっていく。 凄い楽しい。 久しぶりに感じた、この気持ちを… 殺さなきゃいけないのに。 少しだけ、少しでいい… みんなとお話ししたい。 …本当はいけないことかもしれないけれど、 授業中に携帯を操作する。 この“いけないこと”をしている感覚がワクワクしてしまって、 3年生の殆どの男子から「今授業中だけど?」なんて言われていた。 本当は話したいのよ。 貴方達の仲間になりたいの。 そんな気持ちがそこには現れていたんだと思う。 …
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