#2 また再び巡り逢うまで

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#2 また再び巡り逢うまで

少しずつ… 少しずつだけど、 みんなと直接お話しできるようになった。 境界線を越えるのは容易いことだけど、 超えた後どうしたらいいのか、 わからない。 中学の時、私って… どんな風に笑ってた? どんな風に話してた? 嫌われないかな。 見た目が変わろうと、 中身が変わる訳じゃない。 過去虐められて、 友達を作るのを諦めた方が何倍も楽だったな。 私って、こんなに弱かったかしら? 傷つくことなんて怖くないでしょ? …志騎高のみんなは私の事知らないから… 仲良くしようとしてくれてるだけなんじゃないか… ずっとそんな事ばかり考えてしまっていた。 … Twitterを何度か利用していて、 診断が流行りだした頃、 鳥に例える診断で“華園千雪”さんと仲良くなった。 何かを悩んでいるようで、 彼女の言葉は… 何かを求めていた… … 千雪さんのストーカー事件について、 思いを巡らせていた時に遡る。 波の音に気持ちよくなって、 裸足で夜の海に飛び込んだ。 誰もいない夏前の夜の海、 私は愛車のハーレーを飛ばして、 近くの海まで来ていた。 まだ少し、海水は冷たい。 志騎高のみんなからは想像もつかないだろう… 昔着ていた服、…ショートパンツに 臍の上に入れてもらったタトゥーが見えるようなピッタリしたトップス… 軽いパーカーを羽織って、 髪を結い上げていた。 …足の傷を眺める。 いつからか、この傷を隠すようになった。 心配されるのも嫌だった事、 志騎高では全てに蓋をしたかった。 『傷もファッションみたいなもんじゃん、生きてきた証なんだから出せばいいよ』 春輝のその言葉は今でも時々思い出す。 中学の時に着てみたかった服を思い切って試着した時、足ばかり気にする私にそう言った。 それがきっかけで足を出す事が 一時期は怖くなくなった … そっと足に触れる。 本当の私は傷だらけなんだ。 …知られてしまえば… 怖がられるのかな。 不意に大好きなイントロが流れた。 スピーカーにしていたので思い切って歌う。 気持ちがいいな… 中学の時はクラブで騒ぐのも、 お酒を飲むことも、 馬鹿みたいに喧嘩して、 派手なステージで歌ったこともあったっけ。 RAPとかも好き。 春輝と掛け合いして騒いでた。 ダンスも好き。 夢中で歌ったり踊る事は私にとって今までになく新鮮な時間だった… でも、そういう曲じゃない。 この曲は…恋愛の曲だ。 夏が近づくとつい口ずさんでた好きな曲、 男女混合の掛け合いの曲だった。 春輝は好きじゃないし、 私とは一緒に歌うのは絶対嫌だ! なんて…拒否されたのよね。 Twitterに呟いてみましょう… 口ずさみながら何となく 好きな曲を呟いた。 暫くして携帯が光り、 一瞬曲が小さくなった。 画面に見える言葉「その曲俺も好き」…誰? 恐る恐る歌うのをやめて通知を開くと、 「拓海くん?」 意外な人物で驚いた。 …こういう曲が好きなのかしら… なんだか嬉しい。 “一緒に歌いますか?” …誰か、一緒に歌ってほしい。 夜の海に広がる闇を見つめる。 何を迷ってるのか… 千雪さんの悩みを解決しなきゃ… 夜も遅いが電話をかける… 出るかしら… 何回かのコールの後に、 『何?』 なんて眠たげな春輝の声を聞いて 私は直ぐに切り出した。 「千雪さんとデートしてくださいませんか?」 暫くの沈黙が訪れたが、 きっと返答はいつも通りだろう。 『なんで?』 ずっと変わらないものがあるっていいわね… なんて心の中で安心してしまっていた。 「千雪さんがストーカー被害に遭っているの…今日もそれで相談に乗っていました…春輝なら撃退できるでしょ?」 スラスラと私が説明すると、 『それって俺じゃなくてもいいよね』 なんて、嫌そうな声がした。 春輝じゃなきゃいけないの。 私は一つ確信していた事がある。 千雪さんと話してみて、 彼女は似ていると思った。 私の唯一の親友に… 春輝が好きだった… あの子に似ている。 それは見た目じゃなくて、 雰囲気だ… 全く同じ人はこの世に存在しないと思うけど… きっと春輝と仲良くなれるような気がしていた。 「助けてあげたいのです。」 真剣な声で春輝に言った。 これは粗治療かもしれない… 本気で人と向き合え無くなった私達への、 一つの治療だと思った。 ごめんなさい、千雪さん。 どんな結果になろうと、 これがチャンスかもしれない。 「彼氏のフリをして撃退してほしいのです。」 『え?』 拍子抜けしたような声に2人が仲良くないのだというのは直ぐに感じていた。 大丈夫、絶対。 私の感じた事は間違いない。 『千雪さんには連絡しておきましたので。』 ただそれだけ言って電話を切る。 スッキリした気持ちのまま、 もう一度Twitterを開いた。 拓海くんのこの言葉、… なんだか優しくて温かい。 私の言葉に返事は無かったけど… 好きだな。 “愛されたいと願うこともきっと大事ですけれど、 鳥も人間もお腹が空けば鳴きますし 飛び立ちたい時は思い切って違う世界を見て 冒険しても良いと思いますのよ。 好きな時に飼い主に甘えるのが 本当の可愛さかもしれませんから。” …自分の言った事を思い返していた。 私も、冒険してみていいかしら…? … まるみ屋商店の恒例企画になっている短冊。 Twitterでは書きたいと拓海くんからメッセージで来ていたけれど… … まるみ屋商店に短冊を持って来てくれるらしいが実はあまり期待してなかった。 夜の海にいた時にTwitterの返事が無かったからかしら… 本当に書いてくれるのか、 本当に来てくれるのか。 約束の日、 閉店1時間前にも現れないし、 お客さんも夕方から減っていき… 暇つぶしをするしか無かった。 まぁ、そういう日もありますよね。 お団子の仕込みをしながら メッセージのやりとりも忘れようなんて、 何もなかった事にしていると、 「すいませーん……あれ、誰もいない?」 声が聞こえてハッとした… 鈴の音さえも気付いてなくて、 急いで手を洗い、玄関に行く… 疑ってしまったけど、ちゃんと来てくれた。 嬉しかったからなのか、 さっきまで悩んでいたのが 馬鹿らしく思えてくる。 「あら、成宮くん…御免なさいね、 さっきまで忙しくて仕込みの準備をしてましたわ。」 思わず暇つぶしなんて言えずに嘘をついた。 全く忙しくなったのに気を使わせたくないから。 …… 拓海くんに短冊を渡される。 ”皆の心からの望みが、叶いますように” そう書いてあるのを横目に。 左手の薬指に光る指輪を私は見てしまっていた。 指輪か… 今は亡き友人の言葉を思い出す。 『ねぇ、プレゼントに左手の薬指の指輪って重いかな?』 「…いいんじゃない?仲良さそうだし…」 『…じゃあこれにしよう!』 そうやって言った彼女の姿を思い出していた。 自分にはシルバー、春輝には黒のデザインで選んでいたっけ… いいな… 不意にそんな事を思ってしまっていた。 2人は付き合ってなかったけど… 凄く仲が良かったし… きっとこの指輪をつけたら… 付き合うのかな? 恋人か… 私には無縁な世界なんだろう。 告白された事は無い訳じゃない… でも、 まともに話してるのは春輝ぐらいだから、 適当に見た目で判断されての告白なんだろうな。 醜かった私の顔も知らず、 話したこともあまりないのに… … 指輪を渡した親友は凄く頬が赤くなっていたが、 「ありがとね」 なんて言って春輝は無理矢理左手の人差し指に押し込んで見せてすぐに何処かへと行ってしまった。 あの時は本当に驚いたけど。 「ちゃんとしたやつ、自分から渡したい」 なんて後から真剣に私に言うものだから、 本人に言えばいいのに… と複雑な気持ちになっていた。 「…そう…」 2人の関係がどうなろうが、 仲良くしてくれるなら… 私はそれだけでよかった。 でも、それ程までに… その指輪の位置は大切な場所なんでしょ? …また…か… 拓海くんと仲良くなりたかったけど。 その指輪を見た瞬間、戸惑った。 大切にしている女の子がいるんだ。 それでも…仲良くしてくれるのかな…? 「あら、素敵な願い事。 ワタクシはそういうのとても好きですわ…」 精一杯の笑顔で答えた。 なんだか、息苦しい。 短冊よりも指輪の話がしたいけど、 きっと聞いたら… もっと自分の首を絞めそう… 「ふふ、成宮くんは優しいのですね… 叶えたいですね。」 目線は落ちてしまっていた、 適当にしか返事が出来てないだろうな… 「色々あっからさ、本当は思っちゃいねーのに、 誰かの夢や目標が自分の願いになっちゃってる奴… 多いんじゃねえかなって。 俺含めて みんながほんとに望んでることが叶えばいいなー、って思って。」 …なんだか似ている。 私もずっと人に気を使ってきていた。 …そうね、 ずっと特別応援して心配していたのは、 春輝なんだけど… それは罪悪感からだった。 もう2度と彼に迷惑かけたくないから。 「なーんて、勉強しすぎで頭疲れてんのかも」 困ったように笑う拓海くんを見て、 私の願い事を思い返す。 成宮神社で「成宮くんとお友達になりたい」そう祈ったのよね。 …もう、お友達…と呼んでいいのかな? …でも…その手に光るものについて聞けない私は、 まだ全然心開けてないんじゃないかな。 友達なら、 こういう時に簡単に聞けるのよね? …私、何を考えてしまってるのかしら。 ”皆の心からの望みが、叶いますように” か… 「そうね… でも人と人は支え合って「人」って言う形になるのですから、 誰かの夢を願うのもまた、大切なことではありませんか?ひとりでは叶わないこともきっとありますから… 誰かを必要としている人は、 きっとたくさんいますし… 拓海くんの願い事が叶うように、私が願えば私も拓海くんの力になれるかもしれませんね。」 指輪は忘れよう… とりあえず …思った事をありのまま言ってみた。 誰かの願いを願う事… なら、私は拓海くんの願いを… …拓海くん??? 「ごめんなさい、私も疲れているのかしら… 成宮くんでしたわ。」 不意に呼んでしまった名前に緊張が走った。 嫌だった…かしら。 下の名前って親しい人に呼ぶものよね? 「いーよ拓海で」 そう言ってくれた拓海くんは… なんだか…嬉しそうに見えた。 気の所為かしら… でも…少しだけ安心していた。 …… 拓海くんが帰ってから、 私は何も書かれていない短冊を一つ手にとる。 ”拓海くんの望みが、叶いますように” … …それからも、 メッセージのやり取りは続いていた。 七夕の当日は、 拓海くんにお弁当を作る事になる。 お弁当箱はこれしかないから一緒に食べる事になってしまうけど… いいかしら? でも彼女がいるのだし配慮しなきゃよね。 作る時はそんなことを考えていたのに、 お昼休みに静かな所で2人で昼食を取ると、 いつの間にか当たり障りない会話をしていて、すっかり自分の不安に思っていた事を忘れていた。 昼のことを不意に思い返しながら 下駄箱で靴を履き替えてると、 拓海くんが走ってこちらに声を掛けてきてくれる。 「京極ちゃん! …帰り際にごめん、呼び止めて。 今日、ありがとう。 誰かに弁当作って貰ったこと、今まで無くて。 すげー美味かった。 めちゃくちゃ嬉しかった。 ごちそうさまでした。 これから店? 頑張って。んじゃ、また明日。」 そう言って、 私が返事するよりも早く足早に走り去っていった… 「…ふふ」 実は、高校1年生の時から、 こういう事ばかりだった。 早口で私の前で喋るだけ喋って 拓海くんは足早に居なくなってしまうのよね。 「ありがとう」と、ひとことぐらいしか返事させてくれないの。 会話が続かないけど、 悪い気はして無かった。 勿論声をかけてくれる男の子達は居たけれど… 拓海くんは1人でずっと喋って、 私が喋る隙を与えてくれない。 支離滅裂な事を言っていたりして、 笑ってしまいそうになるのを堪えたこともある…何をそんなに焦ってるのかしら? まるでアリスに出てくる“時計うさぎ”みたい… 穴に落ちてもいいから、追いかけてみたくなる。 話してみたいな… もっと話せたらいいのに。 帰り道、 そういえば… SNSがあるんだった… Twitter…画面を開いて、 自分からメッセージを送ってみようかな…? と文字を打ち込んだ。 『今日は…ちょっと不思議な天気ね… 夜は晴れれば良いのですけれど。 綺麗な星が見えますように。 お弁当でしたら、また今度作りますし、 嫌でなければ一緒に食べてくださいね。 素敵な七夕の時間をありがとう。 また学校で、お話ししましょう。 』 それだけ送ると、時間を開けてから返事が来た… 『俺んちの方は雲厚くて空見えねえわ。 弁当は、大事なヤツに作ってやんなよ。 昼一緒すんのはいつでも こちらこそ。楽しかった。 また明日な』 …あら? 大事なヤツに作ってやんなよ…? その言葉に帰り道、足が止まった。 迷惑だったんだ… 浮かれてたのは私だけ…? そうよね。 『大事な人ですか? ……、では自分にいつも通りに作ることにいたします。 えぇ、また明日。』 皮肉にも送り返したのは、それだけだった。 怒りじゃない、虚しさだけが私を包む。 楽しかったんだけど…… 拓海くんは違ったのね。 返事がない所を見ると、 きっとそうなんだ。 お弁当、美味しくなかったのかな。 なんだか不安で、 …学校でもあまり話しかけないように 拓海くんを避けてしまっていた。 話すことを怖く感じたのは久しぶりかも。 大丈夫、まだ間に合うわ。 無かった事にできる。 話さなきゃいいの。 …… お勉強を一緒にしたり、 学校で会話をしたり、 私は楽しかった事が多かったけど、 嫌われた? 不快にさせてしまった? …わからない。 不安なまま、 私を取り巻く環境は複雑になっていく。 実家で見てしまった資料… 桔梗くんの心配をずっとしていた… ここ最近、拓海くんと話してる時は… 近づいて来る闇を忘れていたのに。 その時が来て、 私は“こちら側”の人間だと再び思わされた。 星那ちゃんの笑顔を見て、 私も誰かの願いを叶えたい。 拓海くんの短冊に書いていた願いのように。 まるみ屋商店の店主もち子さんは 持病を抱えていたから、 いつかは無くなるとも思っていたし… …怖くない。 …悲しくない。 ただ、夏祭りまでは、 まるみ屋商店を終わらせたく無かった。 湊さん、檀一郎くん… 春輝に繋がる友達は大切にしよう。 迷惑は掛けられない。 心配させたくない、 そんな気持ちだった。 拓海くんの事は… きっとここまでね。 仲良くなりたかったけど…、 それは出来ない。 これ以上仲良くしたところで… どうせ私は居なくなる。 星那ちゃんを救い出す為に、 父に鬼火組との協定を切らせるように 契約書を破棄させ… 代わりに私は転校するという約束をした。 苦手な教科を克服するために外国に行く予定だ。 …だから、もう必要以上に誰かと仲良くするのは辞めましょう。 … 「ほい。おつかれ。」 ペットボトルのお茶を差し出され受け取る。 …もう関わらない…つもりだったのに。 夏祭りが終わって花火をしようと言われたけれど、そんな気分では無かった。 もう終わったんだ。 私の中で諦めていた感情が揺らぐ。 「お疲れ様、気を遣わせてしまいましたね…お家すぐそこなのに、なんだか申し訳ないわ。」  夏祭りは、成宮神社で行われていたから、 拓海くんの家は…すぐそこだ… みんなで花火を楽しんでいたのに、 気を遣って帰り送ってくれるなんて… 半ば無理やりに待っていてほしいと言われたから、仕方なく待っていたけれど。 何を話ぜばいいのか迷いながら浴衣の袖をぎゅっと掴んで耐えていた。 怖い。 「んや… なんとなーく、聞いてさ。……まるみ屋さんのこと。」 突然、顔を覗き込まれて心臓がキュッと締まるような気がした。 「大変だったね」 そう言ってくれる言葉は、 寄り添ってくれるような… あの海の日の「俺もその曲好き」って言ってくれた…あの日の言葉を思い出した。 安心する。 「そう…なの… なんだか、いろんな方に気を使ってもらってしまって…」 話してみようかな… 今を取り巻く環境…私のこと… 複雑な気持ちにさせるかもしれないけれど、 話してみるだけ。 「あの…言ってなかったけれど…明日からは、まるみ屋商店は閉店してしまうの…今日までが最後の夏の思い出でした。 本当に楽しかったから… 参加できて嬉しかったわ、ありがとう…」 まるで別れの挨拶のように、 もう何も返事は無いでしょ? …なんて、 拓海くんがいつも一方的に言って私から去っていくときのように 私から終わらせたつもりだった。 「気、使ったわけじゃねえと思うよ。 純粋に心配なんだよ、皆。」 …わかってる、わかってるけれど… 私が拓海くんの方を見ると目があって… 「……頼んなよ。」 と一言、強く言われ、胸が苦しくなった。 私が口籠ってしまうと、 「気ィ悪くしたらごめんな。 強い人だってわかってる。」 なんて目をそらされる。 拓海くんは変わっていく… なんだろう、 こんなに話を続けてくれるようになった、 優しく語りかけてくれるようになった。 …私も答えたい。 でも… 「そうね…頼るですか…どうしようもなくて…」 「そう、だよな」 その言葉を栄にお互いに黙り込むと、 沈黙が訪れた… なんだか息苦しい。 吐き出してしまおう、…大丈夫。 だってもう、これが最後だから。 「気を悪くすることはないわ、 成宮くんの優しさだと思いますから。 ずっと、周りから騙されたり… 罵られたりしてきたから、 どうも人をすぐに信じられないの… 嫌な女だと思っているし… 変われるものなら変わろうと努力してもね、 結局は水の泡だったりして… 今も家族とは喧嘩ばかりしているのよ。 もち子さんが亡くなったら… 父は喜んでいたくらいですし… それで気分が悪くなってしまってね… 気持ちが顔に出てしまったり… 笑っていられなくなっていて、 バイトしてくれていた檀一郎くんにも… 心配されてしまいましたわ… 」 ふと空を見上げる。 言えた。 少しだけ心が軽くなるけど… 心配させるから…言わなくても良かった事を 口に出してしまってる。 「喜……ぶ? ごめんな。京極ちゃんのことよく知ってる訳でもねえのに口挟んでさ。 俺も…… 俺もっつーのも変な話だけど正直喋るようになるまでは何考えてんだろな、って思ってた。 でもさ、まるみ屋さんはじめて行った時、 すごいいい顔してたじゃん。 アクセサリーとか見せてくれて。 此処に居る時間がすげえ好きなんだなって思ったんだよ もち子さんのこと、 まるみ屋さんのこと、 大事にしてんだなって。 今一番つれえの京極ちゃんじゃん?」 …あの時は… あの時…楽しそうに見えたのなら、 拓海くん… 貴方が会いに来てくれたからなのよ。 そう言ってしまいたい気持ちを抑えて、 言葉を紡ぐ。 「そう… 父にとっては、 もち子さんが邪魔でしか無かったみたい… 気にしないで… あまり周りに話してこなかったから… そうね…楽しかったのかもしれない… 楽しかったけれど… 最近ね、自分の事がよくわからなくて… どうも、父に反抗的になって、 強く言ってしまったり… いままで、無かったのですけれど… 不思議ね…」 おかしい、こんなに上手く話せないものなのだろうか、何か誤魔化すような言葉を選ぼうとするたびに途切れ途切れになっていった。 「 邪魔…なんてこと、あんの…? 」 驚いた顔をされたが、頷くしか無かった。 「あの、誰にも言わないで欲しいのだけど聞いてくださるかしら…」 「ん、いいよ。言わないこと約束する」 …気持ちを落ち着かせる。 どんな反応をされるかな……? 「ありがとう… 心配かけたくなくて、 言う人を決めているのだけどね… 志騎高を卒業する前に… 転校をする事になりましたの。 夏休み明けたら、 転校届を出しに行かなくてはならなくて。」 鈴虫の声だけが耳についた。 何も言ってくれない、困らせたかな? 拓海くんを見ると驚いていたが、 手が握り拳を作っていたから… 苦しませていると感じていた。 突き放して、ごめんなさい。 自分の胸に手を置いた。 ぽっかりと穴が空いたみたい。 「……転校…三年の……この時期に?」 私今、どんな表情をしてしまってるかしら… ちゃんと言わなきゃ… 「志騎高を… よく思ってないみたいなの。 …ワタクシがね、 家族に反対してしまったから… 今までした事はなかったけれど、家のやり方らしく交渉で納まったし… 叩かれたりしなかったので、いつもよりは平気でした… もうあまり時間もないし、良かったらこれからも… 仲良くさせてくださいね。 もう夜遅いし、 ここまでで平気よ? 帰らなくては、 ならないでしょう…?」 そのあとの事は、あまり記憶に無かった。 今直ぐにも駆け出したい気持ちに溢れていたから。 ただ印象的だったのは「頼ってよ」って何回も、何回も言ってくれていた事。 頼る…か… 頼り方って、どうしたらいいのかな。 誰かを頼った事が無いから、 わからないな… …? 頼った事…あるじゃ無い。 春輝にだけは負担ばかり掛けていた。 今だって…そうよ… …同じようにして…いいのかしら… きっと迷惑ばかりかけてしまうけど。 …… 駄目ね、 何かを伝えようとTwitterを開くのに、 結局誰にも連絡出来ずにいた。 星那ちゃんが傍に居てくれなかったら、 いろんな感情に押しつぶされていたかもしれない。 …… 私は強い。 強くなければいけない。 ただそれだけを考えていた。 …誰にも弱さを見せる事はなく、 ただ、 楽しかった事だけを思いながら。 もういっそ、 この苦しみから逃れられるなら… 死んでしまっても構わない。 そう思うようになっていた…
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