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(すまない)
赤ん坊とは、こんなにも小さなものだったか。
腕にすっぽりとはまり、まだ乳臭い、柔いぬくもり。
握れば潰れてしまいそうだ。
(すまない)
何度抱いても飽きたらない、かわいい我が子。同時に、罪悪感もあった。生まれてこなければ、くだらない運命とやらに巻き込まれずに済むはずだ。
龍脈の近くの山奥。木こりだろうか、人の気配は近い。
ここなら、せめて子供が覚醒するまで、安全に育つだろう。自分の側にいるよりは。
(いつ、また会えるかわからないが……いや、このまま、すべて忘れてこの世界のただの人間として生きてくれれば)
許さないでくれ、すまない。
そっとおくるみごと、赤ん坊を草むらに置いた。
ふと、パチリと小さな目が開いた。催眠の魔法は、あまり効かなかったらしい。
ふわああ、と、途端に泣き出す赤ん坊。その声に気づいた人の気配が、だんだんと近づいてくる。
早く立ち去らなければ。
龍脈の近くだから、かんたんに異空への門は開けた。何もない宙に、白く輝魔法陣が両腕を広げたくらいの大きさまで、徐々に展開していく。
それに吸い取られるように、赤ん坊を捨てた男の姿は一瞬で消えた。
泣きわめく赤ん坊に、バタバタと、重い足取りが近づいてくる………
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