勇者、転生に気づく

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(やっぱり……この世界でも勇者なんだろう) はああ、とため息をつく。 勇者であることに、不満がないとは言えない。 悪しき魔王に世界を滅ぼされないよう、均衡を保つために出現する勇者、それが自分だ。 そう、創世神に運命付けられたのは、『モモ』よりも3回前の人生でだった。 遠い昔のことだ。なにせモモの分を引いても3回分の人生を送っている。 地球という星の、日本という国の、大きな戦争の真っ最中に、『正一』は生まれた。父は有正という名前で、元はただの機械工場の社員だったが、徴兵され、戦地に送られた。 「フィリピン……とか言ったけな」 激戦区であり、壊滅した部隊の中で、唯一生き残ったのが父有正のみ。生きるか死ぬかの戦地で生き延びたその時、彼が自身の中で生み出したものが……すべての邪を払う聖光。 それは、創世神の目にも珍しかったらしい。 そのちからを、散逸させてはならないと、創世神は父から息子へと受け継がせるように仕向けた。 そして、百万世界のすべての世界のバランサーとして、巨悪と戦う勇者として正一を、次はナナキを、次はカイを、……そして、モモを、何度もあちこちの世界へ転生させた。 モモはペンでカリカリと紙に書いていく。正一と、ナナキと、カイの人生を思い出せるだけ、すべて。 なにせ記憶が混乱している。3人分の記憶がこの生まれて6年しか経っていない小さな頭に詰め込まれているのだ、教育もまだろくに受けていない子供にはつらい作業だ。この世界の文字も、ほとんど覚えていない。だから、目の前の紙は、主に前の世界の公用語であるケイズィ語で埋め尽くされている。 頭痛は、治まるどころか酷くなっている。割れそうな頭を抱えながら、モモは何枚も書いて書いて…… 「あれ……?」 前の人生の、カイ。 死因が、わからない。 「どうやって……死んだ?わからない?痴呆でも患ったのか?……いや、魔王は、」 魔王を、どうやって倒したのか? それすらも覚えていない。 (そんなバカな) ヒグ、と鼻の奥から潰れたカエルのような音がした。 とうとう、ぶわっ、と我慢していた涙がいっぱいに溢れてしまった。 ぐすぐすと、泣きながら、ああ、この癖は治らなかったな、と心は冷静に思う。 正一のときからの癖で、極端な感情の高ぶりがあると涙が出てしまう。 悲しくなくても出てしまう。怒っているときも、嬉しいときも、ある程度の高まりがあると、自然に出てしまうので、いつの世界でもあだ名は『泣き虫』だ。 ぐすぐすとやっていると、ポンッポンッポンッと音を立てて、部屋に小さな生物が3つ現れた。 モモと契約を交わした聖獣の、聖霊バージョンだ。 『うぉい、どうした』 『またか、まだまだおこちゃまねえ、モモは』 『主様に向かってそのような……カルラ、恥を知りなさい』 白い手のひらサイズのぬいぐるみみたいなイヌ。さっきまで一緒にいた狼神フェンリル=ベルルト。 汎聖獣だが、炎の眷属で魔力は高いカルラはつばめを丸っこくしたようなフォルムで飛び回っている。甲高い声でカルラを諫めるのは、黒い体に白い襟巻きをしたような模様で、つぶらな瞳と少し尖った口元のショウジョウ。モモの足元で、どこか登るところを探している。 ぴいぴいとうるさいのが増えても、モモの涙は止まらない。 心配して集まってきてくれた聖獣たちに、ありがとうと言いながら、涙を拭う。 (彼らには言っておこう。俺は、魔王を倒すために何度も転生している勇者だって) 特にフェンリルは、この世界でも魔法の根本に関わる大きな存在だ。隠していてもバレるだろうし、何より最初からこんなに頼もしい仲間が増えることになるのだ。 しかし、このままではモモは勇者になれない。 なぜなら、全ての邪を祓う聖光は、かならず父から発生し、それを勇者は受け継がねばならない。 つまり、生まれてまもなく捨て子になったモモには、このままだと力を受継げないのだ。勇者になる資格は、まさにその力の継承だからだ。 問題解決には―― まずは、神託を受ける。 神に話を聞き、現状の把握をするのだ。 (神、ねえ……) その創世神を思い出して、知らずにため息をついたモモだった。
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