5人が本棚に入れています
本棚に追加
それからしばらく、他愛ない話をしていた。
仕事の上司が私の外見を見て遊んでいると言い、仕事が出来ないなどと姑息ないびり方をしてくることだとか、最近読んだ本で感動したことだとか。とにかく色んな話をした。壮馬は楽しそうに相槌を打ちながら私の話を聞いてくれていた。
話題が尽き―少しの間が生まれたときだ。
「・・さて、郁美、そろそろ帰ろう。駅までだけど、送ってく」
砂を払ながら、壮馬は立ち上がる。花火の後始末を始めるその背に、急速に萎んでいく心。私は慌てて立ち上がり、壮馬の腕を引く。
「・・まだ、壮馬の話を聞かせてもらってないの」
その言葉に、壮馬が息を飲む気配がした。私は続ける。
「また、会いたい。今度は壮馬の話を聞かせて。もっと、壮馬のことが知りたい」
夜の闇が邪魔をして、壮馬の表情は窺い知れない。それでも、私は伝えた。今伝えないと後悔すると思ったのだ。線香花火が尽きた時に感じる、あの切なさがまじった後悔を。そんな思いを、二度もしたくない。
しばしの沈黙の後、壮馬は大きなため息を吐いた。
「・・会いにくれば、絶対それっきりには出来ないだろうって、思ってはいたんだけど、さ」
最初のコメントを投稿しよう!