線香花火

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 壮馬は項垂れる。  その様子とは裏腹に、声色はとても嬉しそうだった。耳元で名を呼ばれ、視線を上げる。すると、すぐ目の前に壮馬の顔があった。ぼんやりとしていた輪郭が、わずかに線を辿る。  「あの頃の約束を引きずるくらいには、俺、しつこいけど。それでも俺のこと、知りたい?」  挑発にも似た、試すような声。私はひとつ瞬きをして、壮馬の瞳を見つめた。そんなの、答えは一つだ。 「人魚姫みたいな健気な女の子じゃないの、私。見守るだけなんてできない。それに王子様みたいに、事実を知らない訳じゃない」  その意味を理解したのだろうか。壮馬は、口に手を当て笑いを堪えているようだった。こっちは真面目に話しているのに。わずかな苛立ちを感じていると、不意に壮馬の両腕に包まれた。私は驚いて、瞳を瞬かせる。  壮馬は、身を折り曲げ私の首筋にすり寄る。掠める息遣いがこそばゆい。  不意に、小さな声で壮馬が言う。
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