線香花火

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  私は呆然とする。  なんだ、この男もまたそういう類の奴だったのか。私は明らかに嫌そうな顔を浮かべながら、けっこうです、そうきっぱり口にして男を残し立ち去ろうとした。  「あなたと、花火がしたいだけなんです!」  待ってという言葉の後、突然あげられた大声に驚く。花火って、どんな口説き文句よ。そう思い振り向くと、男の目は、冗談で言っているわけではなさそうだった。  スマホで時刻を確認する。どうせ今日の予定はなくなったのだ。一向に譲らないその男の姿を見て気が抜けた私は、肩をすくめた。  「・・いいよ、付き合ってあげる」  知樹と待ち合わせしていた時間が遅かったため、すでに陽は沈みかけている。コンビニで買った袋売りの手持ち花火とライターの入った袋が歩くたびに揺れるのを眺めながら、私は先を歩く壮馬の背を眺めた。コンビニへの道すがら、彼が教えてくれた名だ。私も名乗ろうとしたら、壮馬は、知ってる、郁美でしょ、とさも当然のことのように言ってのけた。名前まで知られていることに寒気がして、ストーカーの疑いをかければ、幼い頃、私が壮馬に教えたのだそうだ。そんな記憶なんて、全くないのだけど。
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