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しばらく浜辺を歩き人気のないところまで来ると、私と壮馬は防波堤に腰かけた。陽が沈み切るまであと少し。視線を落として見えた、下ろしたばかりのワンピース。見ているだけで嫌な気分になる。同時に、今さらながら悲しくなった。
「郁美?」
俯いたまま黙り込んだ私に、壮馬が話しかけてくる。私は小さな声で間延びした返事をした。どうしたの、と聞かれる前に、私は口を開いた。
「男って、なんで外見だけで女を判断するのかなって思って」
知樹もそうだった。外見だけをもてはやし、私が気を許した途端に去って行く。知樹だけじゃない。知樹の前の彼氏も、その前も。
聞いてくれているのかそうでないのか分からないが、私は続けて言う。
「・・私が、ずっと相手の思い描く私でいればいいのかな」
そうすれば、ずっとわたしといてくれるのだろうか。
「そんなの、郁美じゃないじゃん」
隣から落ちてきた声に、私は顔をあげた。
「郁美は、郁美のままでいいんだよ。郁美だからいいっていう奴が、絶対いるから」
壮馬の言葉が、私の心の琴線に触れる。待って、この言葉、前にもどこかで。
「さ、もう頃合いだろ」
そう言って、壮馬はコンビニ袋を片手に砂浜へと下りる。私はもやもやとする気持ちを抱えながら、その後を追った。
慣れた手つきで壮馬はロウソクに火を点けるが、波風に煽られすぐ消えてしまう。
「しょーがない、直接点けるしかないな」
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