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そう言って壮馬は一つ花火を手に持つと、ライターで火を点けた。ビロードのような闇の中で弾けるように咲く火の花。パチパチと音を立てるその様に、壮馬は子どものようにはしゃいでいる。
「ほら、郁美!」
そう言って手渡される花火は、私の手の内で花を咲かせた。その火が消えないうちにと、壮馬は次の花火、そして次の花火へと火をつないでいく。それは、記憶の走馬灯にも似ていた。
花、海。群青。
私はかつて、それを見たことがある。
「・・ねえ」
私は顔をあげる。直ぐ近くに、壮馬の横顔があった。あまりの近さに、私は後ずさる。
「あ、危ないじゃない」
私の言葉の意味を理解したらしい壮馬は、ああごめん、と笑いながら私から離れる。でも正直、言ってから後悔した。ひと一人分空いてしまった距離感に、私はもどかしくなる。
「花火の残り、線香花火だけだ」
どくん、と心臓が音を立てる。この花火が終わってしまったら、壮馬との約束も終わりだ。この曖昧な記憶と感情の正体も分からぬまま。
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