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髪に差し込んだ飾りが風に攫われる。壮馬から渡された線香花火を摘まみ持ち、じっとその繊細な花を見つめた。もうすぐ、落ちてしまう。すべての線香花火が。
「・・昔さ」
ぽつりと、壮馬が口を開く。そっとその横顔を覗き見る。影の差すその表情が、急に大人びて見えた。
「海でおぼれた女の子を、助けたことがあるんだ」
私は、黙ってその言葉の続きを聞く。
「なんでも、海で死んじゃった生物たちに、花をたむけたいって言って。泳げもしないのに、ひとり海に入ってきた」
正直、俺はなんて馬鹿な子なんだろうって思ったんだよ。そう、壮馬は笑って言う。
「でもね、その子が言うんだ。なんでうちにいた犬が死んだ時は悼むのに、海の生き物たちのために悼んじゃだめなの?って。あの質問はね、参ったなあ」
私は目を見開いた。
その言葉は、誰でもない。幼い頃の私のものに酷似している。壮馬に名を呼ばれ、私は視線を向ける。壮馬の手の中にある線香花火が、ポタッと落ちた。
「俺のこと、やっぱり覚えてない?」
私の手の中にある線香花火が弾けた。それと同時に、走馬灯のように駆け巡る記憶。
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