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「したいけど……化粧品って高いんだね」
「だからいらないって言ってる。あげる」
「え!?」
今度はしっかりミヤの言葉の意図が理解できて驚く。首がすぼまるように肩が上がり、瞬きが多くなる。私の動揺は全面に出る。
「それは移動用のほんの一部だから。家にもあるし」
「え……? い、家に置いておけないからロッカー借りてるんじゃないの?」
「それもある。でも、勝手に部屋に入ってくるような親じゃないから。疑われるような行いもしてないし」
学校でのミヤを思い出し、私は妙に納得する。成績優秀で先生からの信頼も厚い。三者面談でもすれば、親御さんは褒められっぱなし間違いなしだ。そんな娘を疑って部屋中をくまなく捜索するほうがどうかしている。
「でも……こんな高価なもの……」
「別にいらないならいい。もうメイクする気がないなら会う必要もないし」
ミヤはそれだけ言ってポーチに手を伸ばした。私は咄嗟にポーチを持った手を引っ込めた。空を掴んだミヤは、じろりと私を睨み付けた。
「ご、ごめん……。メイク、したい。これからもいっぱい練習して、ミヤみたいに綺麗になりたい。それに、会えなくなるのはイヤだし……」
抱き締めるようにして胸元にぎゅっとポーチを押し当てる。もう会う必要もないという言葉が痛いほど私の心を抉った。
ミヤと会うことがどれほど楽しみだったことか。メイクの練習を頑張ったのも、ミヤに近付きたかったからだ。少しでもミヤのように綺麗になりたいと思ったからだ。
学校でも話しかけられない、外でも会えないだなんて悲しすぎる。そう思ったら、ミヤとの繋がりを手放したくなくなったのだ。
「そう」
おろおろとしている私に、ミヤはそれだけ言ってまた視線を落とした。画面をスライドさせているミヤの指先には、白がメインの付け爪がキラキラと光っている。指を動かす度に、光を受けて眩しく見える。
綺麗……。
一歩引いた状態でミヤを見れば、前回同様ファッション誌からそのまま出てきたような、モデルのような美しいシルエット。
先週よりも控えめな服装に見えるのに、オシャレで素敵。デコルテが綺麗に見える黄色のトップスもミヤの体のラインがはっきり見えて、ドキドキする。
バスケをやめてあっという間に5キロ増えた私の体型が醜く見えた。
メイクだけ上手くなっても、体型や服装がダメなら綺麗には近付けない。持っている靴の中でも比較的綺麗なものを選んだ。サンダルはぺったんこのさっと履けるオシャレでもなんでもない茶色のベルト紐が2つ横並びについたものしかないし、あとはスニーカーばかり。だからスニーカーでもスリムな形のものを選んだ。
靴だけはお兄ちゃんのお下がりってわけにはいかなくて、いつも新しいものを買ってもらう。けれど、お下がりの服に合うのは可愛いサンダルでもパンプスでもなくて無難なスニーカーばかり。
靴くらいは可愛いものを買ってもらえばよかった。
自分の服装を思い返して、恥ずかしさでいっぱいになった。
「私ね、お兄ちゃんがいるの。弟も2人。だから、服はお下がりばっかりだし、新しく買ってもらった服は弟と共用なんだ……」
言い訳をするかのように私はそう呟いた。
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