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 ケイはぐっと眉間に皺を寄せ、「何だよ、その言い方。勝ったからいいってなんだよ!」と声を張り上げた。  私はうんざりだった。告白したのは私の勝手だけれど、高校で隣のコートを走るのが気まずくて、こっちは大好きなバスケをやめたのだ。  本当だったら私もインターハイの予選に選手として行っていたっておかしくはなかった。バスケが続けられただけいいじゃない。レギュラーになれて、試合に出られるんだからいいじゃない。応援にいかなかったくらいなによ。  私の中にも沸々と怒りが込み上げる。168センチの私を見下ろす、嫌な目をしたケイ。ケイの身長が180センチを超えたのはいつのことだったか。そんなことも思い出せないほど、私はぐちゃぐちゃになった感情で押し潰されそうになる。 「そっちこそなによ! 私の応援なんかなくたって、自分の実力で勝てばいいだけでしょ! こっちだって予定があんのよ! いつまでも家族とずっと一緒に過ごしてるわけじゃないの!」  普段あまり大声を出すことのない私。張り上げた私の声に、ケイは目を見開いて瞳を揺らした。 「用事ってなんだよ……。俺の試合よりも大事な用か?」  ケイは一変して、小さな声でそう尋ねた。中学まではケイが一番だった。他の男子とは違う、特別で大切な人。親友に近くて、兄弟に近くて、だけど違う愛しい人。  ずっとずっと特別な思いを抱いてきた。この先もずっとそんな思いと共にケイの隣にいたかった。けれど、それを壊したのはケイだ。  私のことを女として見れないと言った。私は他の女の子とは違う、ケイの特別。幼なじみで家族ぐるみの付き合いで、切っても切れない縁。どの女の子にだってこのポジションは奪えない。  共に過ごした月日というディフェンスは、誰にも破ることなんてできない。  だけど、その特別以外の特別にはなれない。他の女の子が女の子として扱ってもらえるような、そんな特別に私はなれない。  幼なじみも兄弟愛も家族愛もいらない。私はただ、女の子としてケイの特別になりたかった。  バスケの応援に行ったからって、ケイが私を女として見てくれるわけではない。どんなに頑張ったところで、ケイは振り向かない。  だけど、ミヤは違う。あんなにも突き放したくせに、困ったような笑みを浮かべて私の欲しい言葉をくれるの。  新しい綺麗を教えてくれて、知らない世界を教えてくれる。  ミヤといると、男子女子の嫌な私を忘れられる。ケイが女として見れないと言った私を忘れられる。  それどころか、新しい自分を発見できて、そんな自分を少し好きになれそうな気がした。  私の興味はミヤに集中していて、私の中の一番はケイではなくなった。  だからケイの試合に行くよりも、ミヤに会いに行く方を選んだ。家族にもケイより友達を選ぶのかと散々ぐずぐず言われたけれど、ミヤはただの友達じゃない。だって土曜日の夜にしか会えないから。 「そうだよ。ケイの試合よりも大切なものができたの」 「なんだよそれ。……来週は来るだろ?」 「行かないよ。ケイにとって試合の日が特別なように、私にとっても特別な日なの」  私はそれだけ言って屋上をあとにした。  ミヤがミヤになれるのは、土曜日の夜だけ。誰にも邪魔されない唯一の時間だった。それなのに毎週私と会ってくれる。私と会うことで、せっかく手に入れた自由な時間を潰すことになるのに、それでもミヤは私と会うことを選んでくれたの。  だから私もミヤとの時間を蔑ろにはできない。
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