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彼は弟のような存在だった。
姉のようだと慕ってくれる、屈託のない笑みは突然この世界から消えてしまった。
血液の癌と呼ばれるその病を患い、治療をし、快方に向かうかと思われたが急変し、発症から僅か2ヶ月、彼はこの世界のどこからも消えてしまった。
「ねぇやん」と呼び、ふざけた顔文字を送る彼はいなくなってしまった。
人の死に泣き明かした夜は初めてで、ぶつけようの無い悲しみと、半身をもぎ取られたような、引き剥がされたような痛みと虚しさと、「なぜ彼が」と理由を求めてしまう怒りが腹の底から溢れた。
堪えきれない涙は人前でも零れてしまう。
理由を知らない人間からはどう見えるかなんて想像に固くない。
部屋の窓から見慣れたご近所を眺め、一晩泣き明かした。
もう、あいつはどこにもいないんだ・・・
どこにもいない、死という現実。
濃紺の空にはポツポツと小さな星が輝いていた。
空が橙に朱色、人ひとりいなくなろうが新しく始まる1日の訪れを告げる。
喉はカラカラになり、涙で顔はバリバリになっていた。
空っぽになった心と、朝焼けが街を包む様を見ながら、私は腹が空っぽだと思った。
命ひとつ消えてから気づく。
私は彼を好きだったのだと。
空っぽの腹に気づく。
どんなに悲しくても、生きている限り腹は減り、生きていかねばならぬのだと。
涙もう、止まっていた。
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