失われた国

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失われた国

どうやら馬に乗っていた彼はただ単に砂漠を散歩していただけの若者だったらしい。 『この国の人は砂漠を散歩するのか?』とクレオンが呆れていると横から紅月が彼に尋ねた。 「すまないが人を探しているんだ。ミアセラ・アードラーという人を知らないだろうか。この辺りに住んでいたはずなんだが。」 すると若者は仰天したように紅月を見つめて答えた。 「おいおい!あんたどんだけ世間知らずなんだ?ミアセラなら随分前に『賢者にも関わらずストッフを擁護してた罪』とかでどっかの監獄に捕まってそれきりだ。あの人の支配してたこの砂の国も今やすっかり変わっちまってな……土の国って名前になって別の賢者に支配されてる。」 「な……それは本当か?師匠が捕まっただって?!しかもこの国は砂の国ですらない…?そんなの嘘だ。」 「兄ちゃん……あんたもなのかよ……。それなら土の国の中心部まで連れてってやるから自分の目で確かめな。ほれ!乗りなよ。」 彼がパチンと指を鳴らすと地面の砂が固まって3匹の馬が現れた。 「いつもは柔らかい土を使うんだけどここには砂しかないからな。まぁ乗れるくらいには頑丈だ。安心しな。ってかあんたら馬には乗れるよな?」 クレオンが首を振るのを見てそれなら…と彼が誘おうとするのを手で制し、紅月はさっと自分の馬にまたがって手を差し出した。 「乗るがいい。クレオン。落ちるなよ。」 「……じゃあ、えっと……お言葉に甘えて。」 クレオンの顔は真っ赤だ。それを見て案内役の若者……ユピテル・ティエポロは豪快な笑い声をあげた。 「ハッハッハ!なんだ!あんたら恋人同士か?いいねぇ!俺は好きだぞ!」 「馬鹿!そんなわけあるか!!!」 すかさずクレオンが否定するのを見てまた笑い声をあげながら彼は馬にムチを入れる。砂煙をあげながら3匹の馬は駆け出した。 「へぇ!あんた馬の扱い上手だな。」 とユピテルが紅月に声をかけた。 「まぁな。昔はだいぶ世話になったものだ。それよりも……意外だったのはお前だぞ。リアンジュ。」 彼らより少し遅れながら器用に馬を乗りこなすリアンジュはまた鼻を鳴らしながら呟いた。 「……昔教えられたから。一応所作は知ってる。」 「ほぉう……。」 とユピテルは感嘆の声を上げた。 「昔ねぇ。」 「なんだよ。そんなに意外か?」 不機嫌そうに呟くリアンジュはそれっきり口をつぐんでしまった。 「なぁ……クレオン。」 突然、紅月が小声で囁いた。 ユピテルから少し距離をとりつつ紅月は言葉を続ける。 「おかしいと思わないか。私達以外にここに来るような用事が彼にあったとは思えない。散歩というのは明らかに嘘だな。それに私達がここに来たのを見計らったかのように彼は現れた。……存外、ミアセラを捕らえた賢者というのは目の前のあいつかもしれないぞ。」 「馬鹿な……。それならなんでわざわざ街まで連れていくんだ?しかも偽名まで使って。いや…ってかそう思ったならどうして彼の提案に乗ったんだよ?!」 「ミアセラの行方を知る1番近い方法だからな。攻撃してきたらそれを防いだうえで無理やり聞き出すさ。」 「無茶苦茶言うな……お前……。」 「……あんた鋭いな。」 いつの間にかリアンジュが紅月の馬のすぐ隣に自分の馬を寄せていた。 まるで気配を感じさせないその技は『所作くらいは知ってる』と言っていた割には上級者のそれだ。 「どういうことだ。」 と紅月は尋ねる。 「賢者ってのは全員偽名を騙ってるんだよ。あいつらの決めた馬鹿げたルールさ。だからあいつが最初に語った名前の方が本名ってわけ。宝石の名前と色の名前を繋げたのが賢者の名前になってる。ちなみに土の国の賢者はペトラ・ブロンザイト。あんたの言う通り目の前のあの男のことさ。」 おいおいおい!とクレオンは大声を出しそうになるのを必死に抑えてリアンジュに抗議した。 「ど……どうして教えてくれなかったんだ!それならもう決まりじゃないか!僕らは監獄に案内されてるんだ!そうに決まってる!」 「確かにそうかもな。でもここで逃げたらミアセラの行方は全く分からないままだ。知ってるとすれば目の前の男しかいない。ここはこいつの出方を見て……そうだな。あんたの言う通りひねり潰して聞き出してもいいし……まぁそういうことだな。安心しな。ペトラは脳筋で攻撃はただ地面を抉ったり割ったりするような単純なやつだ。攻撃を凌ぐのはわけないはずさ。」 『くうう!正気なのか?賢者とやり合おうなんて気が狂ってるとしかいいようがない!そんな簡単に攻撃を凌げるもんか!』とクレオンは思ったがどうやらついていくしか道はないらしい。 どうなっても知らないぞ……僕には魔法が使えない。いざ戦いが始まったら何の役にも立てないんだから……。
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