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土と焔
振り下ろされた槌を間一髪横っ飛びに避けながら紅月は賢者を見やる。確かに、力任せの攻撃だからかスキが大きい。
『これなら勝算はある……だが、しかし……』
「やめないか!ペトラ!ここは国の中だぞ!私は戦うつもりなんてない!ミアセラの行方が知りたいだけだ!」
だが、そんな紅月の言葉を無視してペトラは再度武器を振り下ろす。振り下ろされるたびに地面はえぐれ、地震のように建物が揺れた。
『……っ!まさか……建物を崩して私たちを生き埋めにでもしようと言うのか?街中へ連れてきたのはそれが理由?だが、国民はどうなる?巻き込まれるぞ?!』
「おい!ペトラ!!やめないか!」
崩れ落ちる建物を炎の剣で凌ぎながら再び紅月は叫んだ。
「……るせえ!黙れ!お前みたいなバケモノごときにやられてたまるか!今度こそ死ねえ!」
ドシ……ン……地鳴りのような音がして地面が割れた。裂け目が3つ……4つ……複数のヒビが紅月の足元目指して走ってくる。深い谷が現れ道路が吸い込まれていく。
「……な!」
人だ。悲鳴をあげて逃げ惑う人々が裂け目の走る先にいる。ペトラの攻撃による裂け目は自分の方ばかりではなく大勢の人がいる道路にも広がっていた。
思わず紅月は目の前の賢者を無視して人々のいる方へ走ろうとした。しかし、賢者は自分を追っている。このままあの人の群れに飛び込めばさらなる被害が……。
「よくも……!どういうことなんだ!ペトラ!お前は国民をなんだと思っている!国をなんだと思っているんだ!」
紅月の振り下ろす炎撃を巧みにかわしながらペトラは笑った。
「はん!なんとも思ってねぇよ!俺の国だどう扱ったって勝手だろうが!それよりもいいのか?あの二人……まだ縄に繋がれたままだぜ。このままだと俺の攻撃に巻き込まれるかもなぁ!あのストッフどものように。」
「お……っと。それはどうかな。」
いきなり後ろから声が聞こえ、ペトラは驚愕し振り返る。かわいた音が聞こえ彼はもんどり打って地面に倒れた。
「いってええ!な、なんで!お前!ちゃんと縄で繋がれてたはずなのに!」
彼の足からは血が流れていた。
彼が倒れると同時に嘘のように地面の裂け目が消えていく。しかし、崩れた建物は元には戻らない。怪我人も多いようでリアンジュが慌ててそちらへ駆けていくのが見えた。
「クソ……!お前みたいなやつに負けるなんて!」
とペトラが叫ぶ。
「ごめんよ。紅月。さすがにこの作戦は無理があったみたいだな。最初からこうしとけばよかった。あぁ……やれやれ……街がボロボロだ……。」
くるりと銃を回し懐にしまい込みながらクレオンはニヤッと笑った。
「ペトラ。君の誤算は僕の能力を見抜けなかったことだな。」
「……くっそぅ。お前のその能力ってのは……。」
「教えるわけないだろ。それよりも……そろそろ言ってくれ。ミアセラの居場所はどこだ。」
彼はペトラに1歩近づいた。だが、これほどまでに大暴れをしたというのに彼から聞き出せた情報は『あいつの居場所は知らない。ただ、時の箱庭という場所にいると聞いたことがある。』という簡素なものだった。
「でも……これだけでも充分役に立つな。」
とクレオンはペトラが渋々ながら土の魔法で建物を修復していくのを眺めながら言った。
「時の箱庭ってのは賢者にしかアクセスはできず、その上能力で感知することも出来ない……か。情報は得たけど行くのはなかなか大変そうじゃね?」
とリアンジュは怪我人の治癒をしながら彼に言う。
虹水晶……もとい"仲間から得た力"の影響でリアンジュは7種類の魔法が使えるようになっていた。ちなみに治癒魔法は光の魔法だ。
「いや……。賢者のみがアクセスできるというのなら賢者の魔法の源である虹水晶にもできるはずだ。リアンジュ。時の箱庭と聞いてなにか感じるものはないか?」
クレオンは聞くがリアンジュは難しい顔をして考え込んだ。
「うーん……。ダメだ。何も浮かんでこない。いや……ちょっと待って。」
突然リアンジュは動きを止めた。胸をギュッと掴んで俯くその姿は何かを聞こうとしているような……見ようとしているようなそんな風に見えた。
目をつぶる彼女の瞳から頬を伝うように涙がひとしずく落ちる。
「おい……大丈夫か?」
思わずクレオンが声をかけるがリアンジュは黙ったまま俯き続けた。そして静かに目を開け、彼の方を振り向くと『わかったよ』と一言呟いた。
「……なにか感じるものがあるとすれば……風だ。風の国になにかある。」
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