1人が本棚に入れています
本棚に追加
凶刃走る
そんな2人の後ろからリアンジュが声をかけた。
「それでもう話は終わりか。」
「あぁ。もう話すことはねぇよ。これで俺が知ってる情報は全部だ。満足かい?」
とペトラは言う。
「そうか。」
相も変わらず暗い目付きでペトラを見つめるリアンジュはス…っと短刀を取り出した。
「なら死ねよ。」
ペトラに回避する隙も与えぬくらい素早い動きで彼の間合いに入るとリアンジュは短刀を彼の腹に突き刺そうとした。しかし……
「な……んで止める!」
リアンジュの持つ短刀を片手で抑えながら紅月は静かに口を開いた。
「やめろ。……人殺しなんて何の役にも立たない。悲劇を連鎖させるだけだ。無為な殺しはやめておけ。」
「無為なんかじゃねえよ!……こいつは賢者だ。仮だかなんだか知らねえが賢者なんだよ!オレの実験にだって来てた。あのクソ共の仲間なんだ!理由はそれで十分だろ!賢者なんか生きていたって意味が無い。こんなやつが支配者だなんてオレは認めない…!こんなチャンス二度と来ない。賢者を1人減らせるチャンスだ。ふいにする訳にはいかないんだよ!離せよ!」
だが、リアンジュは静かに首をふる紅月の瞳を見て急に短刀から手を離した。金属音が辺りに広がる。
紅月の手からは血が出ていた。
「……やめろよ。そんな目で見るんじゃねぇよ…!」
とリアンジュは怯えたように下を向いた。
そんなリアンジュの様子を、刺されかけたというのにペトラは笑って見つめていた。どうやら紅月が彼女を止めようとするだろうことがわかっていた様子である。
「いやぁ……物騒だなぁ。」
と彼は余裕の笑みを見せ腕組みをした。
「リアンジュ。いい仲間を持ったじゃねえか!お前、これからミアセラを探しに行くたびに賢者を1人ずつ殺す気だったろ?でも仲間はそれを望んじゃいねぇ。戦いを望んじゃいねぇんだ。俺らは傷つかない、そっちも傷つかない。ウィンウィンの関係ってわけだ。そのうえお前たちは有益な情報を手に入れられる。よかったなぁ!」
「黙れよ。何がウィンウィンだ。オレ達が手を出さなくたってそっちから仕掛けてくるくせに。」
とリアンジュは怒りのあまり無感情になりながら、しかしそれ以上は何も言わずに『そろそろ行こうぜ。』と背中を向けて歩き出した。
「ところでお前ら。」
とペトラが風の国に向かおうと馬車に乗り込もうとする彼らに声をかける。
「風の国に行くんなら風の賢者べーチェルには気をつけろよ。いいか。どうせあいつのところに行くんだろうけど屋敷で何を見たとしても絶対にケチをつけんじゃねえ。もし批判でもしてみろ。癇癪ウサギに八つ裂きにされっぞ。」
「わかってるよ。ペトラ。」
とリアンジュが彼に振り返る。
「てめえに言ったんじゃねえ!」
とそんなリアンジュにペトラは怒鳴る。
「ほかのふたりに言ったんだ!特にマガツキ。お前だ。いいか?絶対に手を出すな!隣にある俺の国が迷惑すんだよ。」
最初のコメントを投稿しよう!