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出会い
乾燥した風が吹きすさぶ中をクレオンは今日も紅月について『夢の中の人物』を探し回っていた。
今日は『毒牙の荒野』へと彼女は向かうようだ。この荒野には『ポイズンダガー』という猛毒のキバを持つ、狼に似た獣の群れが住んでいる。紅月のように手慣れの者がいなければたちまちこの獣に襲われて死んでしまうだろう。
そんな危険な荒野の真ん中へ躊躇いもせずに進んでいく彼女の背中はとても頼もしかった。その姿を見て図らずも『なんて頼もしいんだ……』と思ってしまった自分の気持ちが悔しくて彼はその考えをふるい落とすかのように首を振ると『どうして守る側の自分が守られているんだよ!』と憤った。
突然、進む先の枯れ草の中から獣の咆哮が聞こえた。
『まさか夢が現実に?』と思う間もなく紅月は既に草の中へと飛び込んでいた。クレオンも慌てて草をかき分け進んでいく。
しばらく行くと開けた場所で紅月と数十匹のポイズンダガーが向かい合って睨み合っていた。
獣の足元には人が倒れている。炎のように赤い髪をした少年だった。
生きているのか、死んでいるのか、身動きひとつしないその子を挟み、紅月と獣は互いを牽制しあう。獣の数は数十匹……いや、後ろからまだ来ているらしい。
彼は獣の隙をじっとうかがった。さすがの紅月もこの数を1人で相手をするのは無理だ。かと言って自分が出ていっても何の役にも立たないことはクレオンにはよくわかっていた。
ここは逃げるしかない。
しかし、いつもならば冷静に物事を判断し引き際も心得ているはずの紅月が今日だけはなぜか獣から目を離さずじっと睨み合いを続けている。
『まさか相手をするつもりなのか?』
とクレオンが思うか思わないかという数刻の間の後で突然周囲が炎に包まれた。
彼女は炎獄魔法の使い手だ。炎を纏った大剣を振るい敵を牽制したり詠唱もなしに周囲を炎の熱波で焼き尽くす術を得意としている。
だが、いつもならば魔法なんて使わないはずだ。しかもこんなに突然使うようなこともない。どういうわけかはわからないが紅月はなにかに焦っているようだった。
「おい!紅月!落ち着け!こんな荒野で炎なんか使ったら僕達も巻き込まれるぞ!」
とクレオンが声をかけるが紅月は聞く耳も持たず怒りに染まった瞳で獣を見すえるのみだった。
しかし、暴走とは違う。ただただ怒りに震えているらしい。『まさかこいつのせいなのか?こいつを傷つけられたから?』
このままでは本当に火炙りになってしまうとクレオンは少年を抱き抱え、無理やりに紅月の腕を掴むと急いでその場から逃げ去った。
……と言うよりも『移動した』の方が正しいのかもしれないが……
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