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魔法と能力
自分の部屋に綺麗に着地を決めるとクレオンは思った。『珍しく僕の力が役に立ったな。常々何の役にもたたない力だと卑下してきたけど。まぁこの力があったから僕は殺されずに済んだのも……事実だけどな……』
この世界には火、水、土、雷、風、光、闇の七つの属性を冠する国がある。そして、その国にはそれぞれその属性魔法を操れるエンチャンターと呼ばれる魔道士が暮らしていた。
彼らの扱う魔法は主に攻撃に使用される。属性にあったものならば大体のことは可能であり、直接水や火を武器として扱う者や元々魔力を帯びていないものにその名の通り『付加』することで属性魔法を帯びた武器として扱えるようにした上で戦う者、様々である。
だが、エンチャンターの数はあまり多くない。この世界の大半は属性魔法の使えない『ストッフ』が占めている。しかし、彼らは少数派のエンチャンターによって差別され苦しい生活を余儀なくされていた。
ストッフは属性魔法を使えない代わりに個別に『能力』を使うことが出来る。彼らの能力は属性魔法がその属性に見合ったものでないと使えないのに対し、個性的で実に様々なものだ。
例えば空を飛んでものを運んだり、例えば非常に遠くのものを見て危険を知らせたり……攻撃にしか使えない属性魔法とは違い、生活一般や日常作業に役立てることができるものが多い。
また、この能力であるが、魔法とは違い使用者が死んでも効果は続く。魔法は使用者が傷ついただけで効果がきれてしまうが能力は一度行使されると永久に消えることはないのである。
確かに攻撃に強い属性魔法の方が能力よりは強いのかもしれない。しかし、能力は上手く使えばエンチャンターをも凌ぐものになる。それに能力を持つものは自分たちよりも多いのだ。
『もしかすると今後自分達の脅威になるかもしれない』
そんな考えを抱いたある人物のせいでこの世界は闇に染った。
11年前に突如現れた『賢者』を名乗る7人の魔道士により、ストッフは無理やり服従させられ支配下におかれた。
彼らはそれぞれの属性をもつ国を乗っ取って我が物顔でストッフをこき使った。元々王国だった国は滅ぼし、国すらなかった場所には新しく国を建て、世界の支配者となったのだ。
ストッフは誰も逆らえなかった。寧ろ、賢者の元で働けないものには死が待っている恐ろしい世界に変わってしまったのである。
そんな世界で自分の持つ『瞬間移動』の力はなんの役に立つんだ。と、クレオンはいつも思っている。
確かに便利な点はあるのだ。相手に力の行使が伝わらないこと、ほんの数秒イメージするだけで遠くへ飛べること、写真だけでも使えること。そして、人を同時に運べること。
だが、この力は逃げる時にしか使えない。もしくは移動手段か?『それで十分じゃないか』と能力を持たない紅月は言うが彼は不安だった。
たったこれだけの力しかないんだ……いつ賢者に殺されてもおかしくない……と。
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