赤の少女

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赤の少女

一瞬しんと辺りが静まり返った。 紅月の提案にリアンジュはますます不審感を募らせ、一方のクレオンはあまりにも驚愕したので思わず『はぁ?!』と声をあげていた。 「どういうことだよ。紅月!!」 彼に見合わない大声だった。 「聞いての通りだ。私はこいつと共に行きたい。……いきなりで本当にすまない。」 「ちょっ……。嘘だろ。」 「嘘ではない。……言っただろ。リアンジュを救えるのは私だけなんだ。また死にそうな目にあうかもしれない。そんなことは決してさせない。私が護れるのなら……それなら……この力を使いたいんだ。」 「そんなのただの思い込みだ!ってか僕のことはどうでもいいのか?!僕はいかない。こんな奴の旅になんかついていくもんか!いや……そもそもこいつはこの荒野に死にに来たんだ。そうだろ??こいつの態度を見れば明らかじゃないか!なのに護るだのなんだのって!おかしいぞ紅月!どうしちまったんだよ!」 クレオンの言葉を肯定するかのようにリアンジュも声を上げる。 「たしかに。このメガネの言う通りだ。あんた変だぜ?なんでそうまでしてオレを助けたいんだ?あんたとオレは他人同士だろ。他人に手を貸したってろくな事にならないのがこの世界だ。無駄な助けはいらない。……オレは誰かに護られる筋合いなんかねぇよ。いいから放っておいてくれ。もう行くからさ。これ以上あんたらの世話になる訳にはいかないんだよ。」 無理やり紅月の手を振りほどくとリアンジュは玄関のドアに手をかけた。 それでも紅月は食い下がる。 「本当に行くのか?」 「……しつこいな。あんたも。なぁ。メガネ……。こいつにオレのこと説明してくれよ。薄々オレの正体に気づいてんじゃないか?なんせあんた……賢者のとこで働いてただろ。それならあの実験のことは知ってるはずだ。そしてあの事故のことも。 そうだろ?クレオン・メルクーリ。元雷の国ゴールデン・ブリッツの病理研究所で働いてたが退職。今は火の国クリムゾン・スピカのどっかで隠居生活をしてる……だったか? まさかこんなとこで元賢者側の研究者に出くわすとは。しかも助けられて家に連れ込まれるとは思わなかったね。 オレは研究者が嫌いだ。賢者ももちろん大っ嫌いだ。だが、クレオン。あんたは味方なんだろ。そうでなきゃオレの正体に気づいた時点で体を切り裂いてこの宝石を取り出してる……。」 「そんなことするはずないじゃないか!なんだ?僕がそんなに猟奇的に見えたのか?!……まぁ確かに味方ではある。」 リアンジュの言葉に不機嫌になりながらも彼は続けて言った。 「なるほど。じゃあ君が『人工虹水晶』の唯一の成功者。セブン・ジュエルのリーダー……リアンジュ・クルーエか。僕は雷の国の研究所で働いていたし病の研究が専門だからあまり詳しくは知らなかったがその赤い髪に少年のような出で立ち……。もしやとは思っていたよ。」 「……フン。やっぱりな。」 「死んだと聞いていたが……あの大規模な事故で生きているとは……。」 「無駄話はこれくらいだ。さっさとあいつに話してやりな。そしたらもうオレを助けようなんて思わなくなるはずさ。」 吐き出すようにリアンジュは口に出すとドアから手を離した。 「どうして自分で話さないんだ。お前の方が実験には詳しいだろうに。」 「信頼出来る相手が説明した方が説得力があるだろ。だが、確かにオレは被験者だ……。実際に体験したものが語れば話は早い。でも噂程度の情報でもそいつを納得させるには充分だ。」 『信頼出来る相手……ね。』リアンジュに自分たちのことがどう見えていたのかは分からないが彼女の言葉は間違いではない。 なにやらおかしな感情は持っているらしいがそうは言ってもやはり紅月とリアンジュは他人同士。しかし、自分と紅月なら?少なくとも2年は共に暮らしているのだ。リアンジュよりも関係が深い……などということは断じてないと断言出来る。 『馬鹿だな。当たり前じゃないか。紅月とリアンジュはついさっき荒野で出会ったばかりだろ?夢を見るようになったと紅月が話すようになってからは2ヶ月か……それでも僕との関係の長さに比べれば雲泥の差だ。それに、だ…夢の中の住人との関係と現実の世界の人との関係は違う。……なにを焦ってるんだ。僕は……。』 どうしてこんな当たり前の事実に気づかなかった? 紅月のリアンジュに対する態度がそんなに恐ろしかったのだろうか。彼女を取られる……そう感じたのだろうか。今までに感じたことの無い胸のざわめきにクレオンは戸惑った。
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