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呪われたセブンジュエル
クレオンは二人の話についていけずに戸惑う紅月にリアンジュのことを簡単に説明した。
「僕は実験の内容まで詳しくは知らないが、人工虹水晶をつくってるっていう話は聞いてた。人の魂を抽出して結晶化し、それを融合させる……。簡単に言えばそういうことだな。
使われてたのは能力を使えなくさせられたうえ無理やり各地から捕らえられて連れてこられたストッフ達。彼らの魂は潜在的に魔力を帯びている。だから『魂の結晶化』なんていう手段が使われてたんだろう。
この実験の名称は『セブンジュエル』……。さっき少し話に出たがリアンジュはその『セブンジュエル』のリーダー。つまりは6人の結晶を入れられる側って訳だな。ちなみに……虹水晶というのはさすがに知ってるよな。紅月。」
「……今、国を支配している賢者共に力を与えている石のことだろう。」
「その通り。虹水晶の力は絶大だ。ただのエンチャンターでしかなかった彼らに支配者としての席を用意し力を与え国を統一する権限を与えた。だが、この石の力は有限だ。無限じゃない。石の力がきれれば彼らは元の生活に逆戻り。
そこで……セブンジュエルの研究に繋がるわけさ。人の魂を使った魔力のきれない生きた宝石……。その唯一の成功例がこいつだ。つまりだ……リアンジュは賢者側に創られた存在でそれが生きてたと奴らにバレたら僕らまでが狙われることになる。
行かせてやれよ。紅月。リアンジュは……僕らのことを心配してくれてるんだ。そうだろ?」
リアンジュは横を向いて
「……そうだよ。言わせんなよな。」
と小さく呟いた。
『なるほどな。あんな態度だったのもわざと追い出されるように仕向けたってわけか……。でも紅月はこうと決めたらテコでも動かないやつだからな……。』
案の定、紅月は怒りの滲んだ声色で
「私は賢者に狙われたとしても別に構わない。……そんな……冒涜的な行為を平気でやるような愚かな真似は決して許すことは出来ない……!リアンジュが奴らに狙われているというのならやはり私はついて行こうと思う。」
と拳を握りしめながら言った。
そんな彼女を見ながらリアンジュは疲れたようにため息をつく。
「やめてくれよ。こいつが説明しただろ?オレの中には人の魂が入ってる。宝石を作るために……オレのせいで……人が6人も死んだんだ。いや。完成するまでにもっと多くの人の命が失われた。
オレは……人殺しなんだ。そのせいなのかは知らないけど、死ねない呪いにかかってどんな傷を受けても死ぬ事が出来ない。それに……自分で死を選ぶことも出来ない。
……魂を解放したくてもできないこの苦しみがわかるか?オレはこの体の中にいる仲間を救いたい……助けたいのにオレにはできない……。それでも諦めるわけには行かない。研究所から逃げてからずっと死ぬための方法を探して旅をしてるんだ。……毒も無理だった……。でも……まだだ。」
フラフラと立ち上がるとリアンジュは玄関へと向かう。そんな彼女の腕を紅月が握りしめる。
「……させない。死なせないぞ。リアンジュ。お前も、お前の中にいる仲間達も同時に救える方法がきっとあるはずだ。お前は……賢者が憎いと思わないのか。むざむざ死んだらアイツらの思うつぼだぞ。宝石を作るだけが実験の完成ではない。そうだろ。クレオン。お前が死に、宝石が完全に7つの魂を得るまでが実験だ。」
「……っ」
リアンジュは紅月の顔、そしてクレオンの顔を見て驚きの表情を見せる。
「……たしかに。そうとも言える。」
紅月の前であるから強くは言えなかったが……紅月を説得するどころかリアンジュまでもが彼女の言葉に心を動かされてしまっている。
このままではまずい。
「……でもさ、例えオレが死のうとしなくてもオレはどの道長くは生きられない体だ。はぁ……ここまで計算して実験を始めたんだとしたらますます賢者のやつらは腐ってるな。」
とリアンジュは無理やり笑って2人に言った。
「まさか…お前宝石病に……。」
「さすがは医者だな。知ってたか。」
「……どういうことだ。」
「……宝石病っていうのは心臓から始まって体が徐々に結晶に侵食されていき、最後には死に至るとても珍しい病のことだ。本来は突発的に発生するし原因も未だ解明されていない。
でもそうか……リアンジュのように無理やり宝石を埋め込まれたらこの病が起きないわけはない。この病は治療法はないし進行を止めるための薬もない……。残念だ。紅月……とても残念だ。すまない。」
今は退職していると言ってもクレオンはかつて病を研究していた医者の端くれだ。目の前の患者を救うことが出来ず死なせてしまう悔しさは胸が痛む。
それに紅月のこともあった。彼女が誰かを救いたいと願い、自分すら置いて飛び出そうとするなんて今までになかった行動だ。
初めは酷く驚いた。どういうことだ!と怒りが湧いた。僕がお前を助けなければ…お前は死んでいたんだぞ。そんな恩人をお前は見捨てて去ろうというのか?と思ったのだが……
『あのバケモノが……。』
『そうか。もう紅月はバケモノなんかじゃない。人だ……ちゃんとした一人の人間なんだ。自由な意思があって行動出来る……。』
クレオンはそんな紅月の願いを叶えてあげたいと思い直した。彼女がこんなにも思っているその人を自分も助けることが彼女のこれからの人生において自分が出来る最後の支えになる……。だが……方法は……。重い沈黙が彼らの間に広がった。
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