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「何泣いてんだよ」
「うるさいな、どっちがだよ」
横を見れば泣き顔のあいつ。
あいつの横の泣き顔の私。
好きな子に一世一代の告白をして、見事に玉砕した涙脆いこの男は、幼馴染の私が隠した恋心なんてものに気づきもせずに横で泣いている。
振られて嬉しい、そんな花一匁的なものではなく、話せて嬉しかっただの、キャラメルをもらっただの、おはようと言えただの。
無邪気に私に報告してくるこの男を、高校入学以来2年も見てきた私は、玉砕覚悟の討死が見事すぎて泣けてきたのだ。
「あーあ、なんで俺あと10年早く生まれなかったかなー」
夕暮れの川っぷちで空に吐き出した声は、鼻づまりの涙声。
「・・・10年早かったら先生と出会ってないよ、たぶん」
「・・・・・・そうかもしんねぇけど・・・」
「しかも、結婚決まってる先生じゃん」
「おまえグッサリとどめさすなよ・・・!」
「ふっ・・・ほら、また泣く~。あんたの勇姿は見事だったよ。」
「・・・・・・10年早かったら、お前とも出会えてないんだよな・・・」
「え・・・は・・・なんだよ、気持ち悪いな」
「・・・あ~~~~俺!先生好きだったー!!」
その叫びに散歩中の犬が吠える。
「よし!行くぞ!!」
「な、どこにっ」
「俺を慰めろ!肉まんが食いてぇなぁ!」
「えっピザまんがいいよ!!」
「あ、ピザまんも食いてぇ!半分こしようぜ!」
そう笑うあいつの笑顔は夕日を背に表情は見えない。
私は涙を拭って、垂れた鼻水を拭き、先を歩き出したあいつの背を追った。
あれから10年。
私の日課は朝に弱い寝坊助なこの男を起こすことから始まる。
寝ぼけまなこで顔を覆う左手、薬指には同じ銀色の指輪が光っている。
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