亮(序奏部)

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亮(序奏部)

 はるか、はるか、はるか。   尊いほどのこの三文字を初めて呼んだのはいつだったか。病院の廊下で踊るように左右に振られた、彼女の頭の仔馬の尻尾が目に焼き付いて離れない。  自らの人生でもっとも大切な言葉を上書きするような人が、中学生のころにも一人いた。同じダブルリードを吹いていたくせして、ちっとも仲間意識をもてなかった人。  ファゴット吹きの、間山先輩。  ファゴットを嫌いだなんて悪態つきながら、サボってばかりいて。音楽なんて嫌だって、悪態ばっかりついていたなあ。でもね、俺には分かっていたんですよ、間山先輩。あなたが物凄くファゴットを好きだったっていう事が。結局はその魅力にドはまりしていたんだって。高校になって、今でもファゴットを吹いているんだろうか。音楽を続けているイメージを持てないけれども、やっていてほしいとも思う。厨房でシュークリームを作りながら、ふと考えるときがある。
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