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リセット。
また『聖者の泉』からのスタートだ。
挑戦は続いた。魔法は使わずに武器だけで戦うとか、逆に補助魔法を盛り込んで使うとか。あらゆる方向からアプローチをしたが、ナルセたちは何十回も完敗を喫した。ラスボスに有効な手段を、ひとつも見いだせないままだった。
記憶が引き継がれるため、徐々につもるむなしさ、倦怠感、飽和……。精神的にも追いつめられていく。
ナルセがふと見ると、仲間たちの目がみんな薄暗く曇っていた。少し前まで、あれほど活気にあふれ、希望に輝いていた目が……。
ラスボスを倒せば自由が手に入る。何して遊ぼうか、どんな仕事に就こうか。そんなふうにみんなで話して盛り上がっていたときは、はるか遠く昔に感じた。
勇者として、みんなの志気を上げなくてはいけない!
「うおおおおおおっ!」
ナルセは急に叫びながら走り出し、下級魔物のラビットうささを捕まえた。ラビットうささは、うさぎのような紫色の魔物で、レベルの低い段階からよく戦う。よく見ると愛嬌がありかわいらしい。
「どうした、ナルセ……。いくら見た目がぬいぐるみっぽいといっても、そいつは魔物だぞ」
仲間たちはついにナルセの頭がおかしくなったのだと思い、哀れそうに見てきた。
「僕たちの攻撃が利かないなら、もしかしたら魔物の攻撃が利くかもって思って……。といっても、強い魔物を手なずけるのは無理そうだから」
ナルセは、腕の中で暴れて手の甲を思い切りかんでくるラビットうささを、根気よく撫でさすっていた。撫でても撫でても噛まれる。痛い。うささの歯は、手に填めているグローブを突き破ってきた。
「悪には悪を、毒を持って毒を制す、か?」
「可能性はあまりなさそうだけど、このままなんの策も打てずに負け続けるのは、ごめんだしな」
「失敗は成功の元という。じゃあ、やってみよう!」
仲間たちは気の良い奴らだった。
一週間は生活できるように必要な荷物をそろえてある。洞窟の中で、ラビットうささ懐柔作戦を決行した。
みどりに透き通った泉のそばには、ほかの魔物は近づけない。戦闘の心配のない穏やかな場所で、ナルセと仲間三人は、ラビットうささをかわいがった。繰り返される負け戦に疲弊しきったナルセたちに訪れた、つかの間のオアシスだった。
おいしい食べ物を与えたり追いかけっこをしたりと遊びまくった結果――ナルセの人徳がなせる技か、うささは、ようやくナルセに懐いた。一週間かかった。
そして、うささにラスボスを一緒に倒そうと伝えた。
準備を整え、迷った末に『聖者の泉』で上書きセーブをした。うささと仲良くなった時間をリセットするのは辛かったのだ――ナルセも仲間も。
「……この作戦は当たりだった。藁をもすがる思いでうささを味方にし、ともに最終戦に乗り込んで、ラスボスに攻撃させた。攻撃は刺さった! 僕の勇者の必殺技よりもずっと! 睨んだとおり、悪属性が勝利の切り札だったんだ。でも――」
ナルセは苦渋を噛むようにして、こうべを垂れる。
「うささは、魔物の中でも最弱の存在……。他の世界におけるラスボス並の超強力な人材を連れてこないと、あいつを倒すまでいくはずがない」
そう結論付けたナルセは、仲間たちを故郷に帰すことに決めた。ただしその前に、仲間の一人である魔法使いに、全魔力を尽くして、とびきりの、ここ一番の、『大悪党』を召喚するように頼んだ。魔物だと手なずける自信はまるでない。言葉の通じる者がいい。
魔法使いは、魔力をすべて出し切って、召喚の儀式を行った。
「それで満を持して、このわたしが呼び出された。そういうことだな?」
サタナエルの問いに、ナルセは頷く。
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