32人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
スマホを持つ手の震えが止まらない。震え過ぎて画面の文字がブレる。
4文字の日本語とにらめっこをしているとメッセージ画面が着信中という画面に切り替わった。
『着信中:春彦』
どうかドッキリであってくれ──そう願いながら私は春彦からの電話に出た。
「もしもし!? 春彦、別れようってどういう意味──」
「卯月菫さん、ですね?」
スマホの受話口から聞こえてきたのは彼の声ではなく女性の声。
「は……い」
「今日、貴女と待ち合わせているホテルに春彦は行きません」
「え……?」
私はこの数秒で全てを理解した。
この2年間、私は彼女ではなく浮気相手をさせられていたのだ。そして受話口の向こう側の女性が本命の彼女。女性の口振りからそう感じざるを得なかった。
「卯月菫さん――金輪際、旦那には近づかないでください」
「は……?」
その言葉を聞いた瞬間全身の毛穴が開いたような気がした。電話の相手は彼女どころか奥さんだったのだ。つまり私は浮気相手じゃなく不倫相手をさせられていた──
受話口の向こう側から子どもの声が聞こえ私はもう何も言えなくなった──だが幸いな事に春彦の奥さんは私が何も言わなくてもずっと1人で喋っている。
主に罵詈雑言でそれらは全て耳を塞ぎたくなるような言葉。
「人の男に手を出すだなんてとんだ女狐ね」
春彦の奥さんは最後にそう言い放つと一方的に電話を切った。
なんて最悪な誕生日なんだろう───
![227c39ff-7a4f-4dad-b3b2-dc0a9c45b219](https://img.estar.jp/public/user_upload/227c39ff-7a4f-4dad-b3b2-dc0a9c45b219.jpg?width=800&format=jpg)
最初のコメントを投稿しよう!